2024.10.2

会社設立

農業の法人化をするにはどうすればよい?農業法人設立の手順やメリット・デメリット

この記事の監修者

松本 崇宏

税理士法人松本 代表税理士

松本 崇宏(まつもと たかひろ)

お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。

かつては、農業といえば家族経営で行われるものでした。しかし昨今では、農家に生まれた人だけが農業に携わるのではなく、幅広い人材が農業に携わることができるよう農業の法人化が進められています。

では、農業の法人化をするにはどのような手続きが必要になるのでしょうか。

今回は、農業法人の設立手順や法人化のメリット・デメリットについて解説します。

農業法人とは

農業法人とは、農業を事業内容とする法人の総称です。具体的には稲作や施設園芸、畜産などを営む法人が農業法人に該当します。農業法人は会社法に基づく「会社法人」と農業協同組合法に基づく「農事組合法人」の2つに分類され、法人化するにあたっては、どちらの法人を選択するかを決めなければなりません。

会社法人と農事組合法人の数

農林水産省の「令和5年農業構造動態調査結果」によると、令和5年2月1日現在、全国の農業法人数は3万3,000ほどであるとされています。農業法人の内訳を見ると、会社法人が2万2,100経営体、農事組合法人が7,800経営体となり、会社法人の方が数は多くなっています。

参照元:農林水産省「令和5年農業構造動態調査結果」

会社法人の農業法人

会社法人とは、会社法で定められている法人形態のことです。会社法人には、株式会社、合同会社、合名会社、合資会社の4つの形態があります。

形態による主な違いは次の通りです。

<会社法人の4つの形態の主な違い>

 株式会社合同会社合名会社合資会社
設立に必要な人数1人1人1人2人
出資者の責任範囲有限有限無限無限または 有限
出資者の呼称株主有限責任社員無限責任社員無限責任社員有限責任社員
定款の認証必要不要
意思決定機関株主総会社員全員の同意
決算公告の義務ありなし

農事組合法人の農業法人

農事組合法人とは、農業協同組合法に規定されている法人の形態で、農業生産を分担し合って営む法人です。農事組合法人で働く人は社員ではなく、組合員と呼ばれ、組合員は農業を営む、または農業に従事する個人でなければなりません。

農事組合法人には、1号法人と2号法人があります。1号法人は農業経営にあたって必要な共同利用施設の設置や大型農機具の導入などを行う場合に設立する法人です。一方、2号法人は農業の経営を行う法人であり、農作物や畜産物の生産のほか、生産した農畜産物を使用した商品の製造や加工などを行います。また、1号法人は農地を取得することができませんが、2号法人は農地の取得も可能です。

農地を所有できる農地所有適格法人

会社法人や農事組合法人を設立したからといって、必ず農地を所有できるわけではありません。法人が農地を所有するためには、農地所有適格法人の要件を満たす必要があります。

農林水産省では、法人が農業に参入し、農地を所有する場合の条件を次のように定めています。

基本的な要件
1.農地を効率的に利用するための営農計画がある
2.一定の面積を経営する 農地面積の合計が原則50a以上(北海道の場合は2ha)以上である
3.周辺の農地利用に支障がない
農地所有適格法人の要件
1.株式会社(公開会社ではない)、農事組合法人、合名会社、合資会社、合同会社である
2.主たる事業内容が農業(農畜産物の製造・加工、貯蔵、運搬、販売、農業生産に必要な資材の製造、農家民宿等の運営など)であり、売上高が過半を占める。
3.農業関係者が総議決権の過半を占める。
4.①役員の過半が法人の行う農業に常時従事(原則として年間150日以上)する構成員であること。
 ②役員または重要な使用人の1人以上が法人の行う農業に必要な農作業に従事(原則として年間60日以上)すること。

また、農地所有適格法人になるには、法人を設立した後に、農地の権利設定もしくは移転等の許可申請を農業委員会に提出しなければなりません。農業委員会で農地所有適格法人の要件に合致しているかの審査を受け、許可が下りると、農地所有の権利を有することができます。

会社法人と農事組合法人の違い

農業の法人化をする場合、会社法人と農業組合法人を立ち上げるのでは次のような違いがあります。両者の違いを把握したうえで、将来的な事業展開などを考慮し、適切な形態を選ぶようにしましょう。

実施できる事業の違い

農業を営む会社法人を設立した場合は、実施できる事業に制限はなく、営利活動全般を行うことができます。一方、農事組合法人の場合、農業関連以外の事業を営むことはできません。そのため、将来的に農業以外の事業展開も検討しているようであれば、会社法人を選択する必要があります。

経営に参加できる人材の違い

会社法人の場合、農業に関係していない人も経営に携わることができます。しかし、農事組合法人では組合員は農業に従事する人や農業を営む人でなければなりません。したがって、経営に携われる人材も、農業に関係している人に限定されます。

税負担の違い

一定の条件を満たす農事組合法人では、耕種農による収入については法人事業税が非課税となります。 会社法人の場合は、法人事業税が非課税になることはありません。

設立費用の違い

会社法人を設立する場合、会社の形態によって費用は異なりますが、6万円~25万円前後の費用がかかります。しかし、農事組合法人を設立する際には、定款の認証も不要であり、登録免許税も非課税であることから、 設立費用を安く抑えることができます。

意思決定の違い

株式会社の場合、出資者と経営者は分離していますが、持分会社(合同会社、合資会社、合名会社)と農事組合法人では出資者と経営者は原則として一致します。

また、株主総会によって決議をする際は所有する株式の数に従って議決権が付与されますが、持分会社と農事組合法人では出資額に関わらず組合員1人に1票の議決権が与えられます。したがって、持分会社や農事組合法人では全員が平等に意思を示しながら、事業を進められるという特徴があります。

農業の法人化をするメリット

「令和5年農業構造動態調査結果」によると、農業は法人化が進んでいるとされています。令和4年に比べ、法人経営体数は2.5%増加しており、会社法人は900経営体、農事組合法人は100経営体増加しているのです。

農業の法人化が進む背景には、法人化によって得られる次のようなメリットが関係しています。

社会的信用が高まる

法人化すると、個人事業主として農業を営む場合に比べ、社会的信用が高まります。

法人化する際には、法務局に登記をする必要があり、法人の代表者や資本金などの基本的な情報を登録します。これらの情報は、誰でも確認できるようになっているため、取引先などからの信用度が高くなるのです。

また、法人化すると厳密な会計処理が求められ、賃借対照表や損益計算書などの作成も必要になります。そのため、決算によって健全な経営状況を明確に示すことができれば、金融機関からの信用が増し、融資を受けられる可能性も高くなるでしょう。

税金の負担を軽減できる

個人事業主として農業を営んでいる場合、収益に応じた所得税を支払います。所得税は累進課税制のため、所得が多くなるほど税率が高くなり、納税額も多くなる仕組みです。

しかし、法人が納めるべき法人税には累進課税制度は採用されていません。したがって、収益が800万円を超えるような場合は、個人事業主として農業を営むよりも、法人化した方が納税額を軽減できる可能性があるのです。

また、法人化すると従業員や組合員への給与や従事分量配当は、経費として扱うことができ、要件を満たした支払い方法であれば、役員報酬も損金計上が可能です。そのため法人化によって所得の分配ができる点も、税負担の軽減につながります。

効率よく農業経営ができる

厳密な会計処理を行い、決算を行うようになると、経営状況をしっかり把握しやすくなります。また、会社法人の場合は、農業関係者ではなく、経営に詳しい人物に経営を任せることもできます。そのため、より効率よく農業を経営できるようになり、事業の拡大も期待できるでしょう。

事業を承継しやすい

法人化すれば社会保険が適用されるため、福利厚生面も充実させることができます。また、会社法人の場合は農家出身者でなくても経営に携わることが可能です。

農業の法人化は、幅広い人材の確保を実現しやすくし、農業の継承問題の解決にもつながると期待されています。

農業の法人化をするデメリット

農業の法人化をするメリットは多くありますが、法人化によるデメリットもないわけではありません。農業の法人化を検討する際には、デメリットについても十分に理解しておくことが大切です。

法人の設立には費用がかかり、社会保険料の負担も発生する

会社法人として法人化する場合、設立にはまとまった額の費用が発生します。また、会社法人でも農事組合法人でも厳密な会計処理が必要になるため、税理士などにサポートを依頼するケースが多く、その場合税理士への報酬の支払いが必要です。

また、法人化すると、たとえ1人だけの法人を設立した場合であっても社会保険の加入義務が発生します。社会保険料は、法人と個人が半額ずつ負担し合うことになります。そのため、従業員や組合員などが増えた場合には、法人の社会保険料の負担が大きくなります。

そのほか、赤字であっても法人住民税の均等割分の負担は必要になるなど、法人化することで増える負担もあります。

事務負担が増える

法人化すると、個人事業主に比べ、会計処理が複雑化します。そのため、経理や会計についての知識や経験のない人が、日々の経理処理を行うだけでなく、決算を行い、確定申告書を作成するとなると、その負担は非常に大きくなります。

その点も法人化のデメリットになると言えるでしょう。

農業法人を設立する手順

農業を法人化することを決定したら、どのような手順で手続きを行うのでしょうか。農業法人設立時に必要な手順をご説明します。

会社法人である農業法人を設立する場合

1.事前準備・発起人会の開催

会社の形態や商号、資本金、事業内容、会社設立日、資産の引継ぎなどを決定し、発起人会で基本的事項を決議します。

2.定款の作成

定款とは、法人の根本的なルールを記載する書類です。定款に記載する事項は決められており、商号や本店所在地、事業目的、発起人の氏名などの絶対的記載事項のほか、必要な事項を記載します。

3.定款の認証

株式会社を設立する場合は、公証役場で定款の認証を受けます。持分会社を設立する場合は、定款の認証は不要です。

4.資本金の払い込み

この時点ではまだ法人化できていないため、法人名義の銀行口座は作れません。そのため、代表者の口座に資本金を払い込みます。

5.役員の選任

株式会社を設立する際には役員を選任する必要があります。持分会社の場合は、業務執行社員全員が代表となりますが、代表社員を定めることも可能です。

農地の所有を目指す場合には、農地所有適格法人の要件として役員の過半が農業に常時従事する構成員であり、役員または重要な使用人のうち1人以上が農作業に従事するという要件を満たすようにしましょう。

6.法務局での法人登記

法務局に設立登記申請書や定款などの必要書類を提出し、登記を行います。登記申請の際には、登録免許税として株式会社の場合は資本金額の0.7%または15万円のいずれか高い額、持分会社の場合は資本金額の0.7%または6万円のいずれか高い額を支払います。

問題がなければ、登記は1週間程度で完了します。

7.諸官庁への届け出

登記完了後に、登記簿謄本と代表取締役などの印鑑証明を取得し、関係各所に届け出を行います。届け出が必要な所轄庁や書類は次のようなものです。

届け出先必要書類
管轄の税務署・法人設立届出書
・給与支払事務所等の開設届出書
・青色申告の承認申請書
・源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書(必要な場合のみ)
都道府県税事務所・法人設立届出書
市区町村役場・法人設立届出書
社会保険事務所・健康保険・厚生年金保険新規適用届
・健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
・健康保険被扶養者(異動)届(扶養者がいる場合)
労働基準監督署・適用事業報告書(労働者を雇用する場合)
・労働保険保険関係成立届(労働者を雇用する場合)
・労働保険概算保険料申告書(労働者を雇用する場合)
・就業規則(変更)届(常時10人以上の労働者を雇用している場合)
ハローワーク・雇用保険適用事業所設置届(役員以外の労働者を雇用する場合)
・雇用保険被保険者資格取得届(加入する労働者がいる場合)

農事組合法人である農業法人を設立する場合

1.発起人会の開催準備

農事組合法人を設立する際には、農民3人以上が発起人となる必要があります。事業目的や業務内容などを決定し、発起人会の開催準備を進めます。

2.設立同意書の徴収

組合員になる人すべてから設立にあたっての同意書を徴収します。

3.発起人会(創立総会)の開催と役員の選出

法人としての原則的なルールを定める定款を作成します。定款の認証は必要ありません。

また、農事組合法人では役員として理事を置かなければなりません。発起人会では理事を選出し、役員報酬の限度額などを設定します。理事選出後は、発起人から理事に設立事務の引渡しをします。

4.出資金の払い込み

出資組合の場合は、組合員全員が出資金の払い込みをします。

5.設立登記

法務局で設立の登記申請を行います。農事組合法人の場合、登録免許税は非課税となるため、登記申請時に費用は発生しません。

6. 諸官庁への届け出

登記完了後に、登記簿謄本などを取得し、関係各所に届け出を行います。会社法人とは異なり、農事組合法人の場合、都道府県庁または農林水産省への届け出も必要になる点に注意しましょう。農事組合法人設立後に届け出が必要となる所轄庁や書類は次のようなものです。

届け出先必要書類
都道府県庁
(道府県の区域内を地区とする場合)
・農事組合法人設立届出書  
農林水産省
(地区の範囲が県境を越える場合)
・農事組合法人設立届出書  
管轄の税務署・農事組合法人設立届出書
・給与支払事務所等の開設届出書
・青色申告の承認申請書
・源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
(必要な場合のみ)
都道府県税事務所・農事組合法人設立届出書
市区町村役場・農事組合法人設立届出書
社会保険事務所・健康保険・厚生年金保険新規適用届
(確定給与支払制の場合)
・健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
(確定給与支払制の場合)
・健康保険被扶養者(異動)届
(確定給与支払制で扶養者がいる場合)
労働基準監督署・適用事業報告書(労働者を雇用する場合)
・労働保険保険関係成立届(労働者を雇用する場合)
・労働保険概算保険料申告書(労働者を雇用する場合)
・就業規則(変更)届(常時10人以上の労働者を雇用している場合)
ハローワーク・雇用保険適用事業所設置届
(役員以外の労働者を雇用する場合)
・雇用保険被保険者資格取得届
(加入する労働者がいる場合)

まとめ

農業法人を作り、法人化して農業を営む方法には、会社法人を設立する方法と農事組合法人を設立する方法の2つのパターンがあります。農家が法人化する場合には、事業内容や目的に合わせて会社法人と農事組合法人のいずれかを選ぶことができますが、農事組合法人は農業を営む人、または農業に従事する人でなければ設立することができません。また、農地を所有して農業を行うためには農地所有適格法人の要件を満たす必要があります。

農業を法人化すると、節税できる可能性があり、社会的信用を高められるために事業を拡大しやすく、事業の承継もしやすくなるといったメリットがあります。一方、農業法人の設立には手間と費用がかかり、社会保険料などの負担が生じるというデメリットがあるのも事実です。

農業の法人化を検討しているのであれば、将来のビジョンも踏まえたうえで、法人化をすべきかどうか総合的に判断することをおすすめします。

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