2024.10.22

会社設立

会社設立前にかかる費用はいつから経費になる?創立費と開業費の取り扱いについて詳しく解説

この記事の監修者

松本 崇宏

税理士法人松本 代表税理士

松本 崇宏(まつもと たかひろ)

お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。

会社設立には様々な費用がかかりますが、会社設立前にかかった費用は経費になるのか気になる方もいるでしょう。

本記事では、会社設立時にかかる費用の取り扱いについて解説します。

結論として、会社設立の準備期間にかかった費用は、設立前であっても経費として計上可能とされていますが、その取り扱いには注意する必要があるのです。

設立前の経費となる創立費や開業費との違いや、経費として認められる費用の範囲についても説明していきますので、開業準備を始めようと考えている方は、この記事を参考に節税対策をしていただけたらと思います。

開業準備にかかった費用は経費計上できる

開業準備にかかった費用は経費計上できる

開業する際、準備の段階から様々な費用が発生しますが、経費として計上しても良いものが気になる方も多いでしょう。

結論として、開業のための支出も経費として扱うことが可能です。

法人の場合、会社設立にかかる費用はその時期によって「創立費」と「開業費」に分けられ、原則として「繰延資産」という資産科目で計上します。

後述しますが、経費として計上できない費用もあるため、注意しなければなりません。

繰越資産とは

繰延資産とは、支出の効果が翌年以降も続く場合に、費用をいったん資産として計上して、後に償却費として経費にできるものを指します。

会社の設立にはまとまった金額が必要になり、全額費用にしてしまうと初年度が極端な赤字となってしまう恐れがあります。

しかし、創立費と開業費を繰延資産にいったん計上すれば、会社の利益が出たタイミングで少しずつ償却することができるのです。

繰越資産の償却方法

資産として計上したものを費用化することを「償却」と呼び、創立費や開業費を繰越資産として計上できますが、償却方法は2つあります。

1つは、会計ルールに基づいて5年以内に償却する方法で、毎月定額で償却するものです。

もう1つは、税務ルールに基づく任意償却で、法人のみに認められており、耐用年数期間内であれば償却額を自由に設定できます。

開業前の費用を経費にするメリット

開業前の費用を経費にするメリット

なぜ開業前にかかった費用も経費計上できれば良いのかというと、節税になるからです。

自社の利益が増えると、その分支払わなければならない税額も多くなりますが、利益を得るために支払った経費があれば、利益から差し引いて申告できます。

つまり、申告時の利益を減らせるので、税額が低く抑えられ、節税に繋がるということです。そのため、少しでも節税するには、経費計上できる範囲を把握しておき、かかった経費を正しく計上する必要があります。

開業前の費用はいつから経費にできる?

開業日から何年前の支出まで「創業費」や「開業費」にできるのか気になる方もいるかと思います。

一般的には、半年から1年ほど前までがさかのぼれるとみられていますが、明確には定められていません。

つまり、「開業しよう」と思ったときから支出を経費として計上できるとも言えますが、税務署から不審に思われたり、税務調査で否認されたりする可能性があるため、数年前の支出は明確な証拠がなければ認められないでしょう。

客観的に見て開業に必要な支出だと認められる必要があるので、領収書などの証憑書類を保管しておくのはもちろん、開業の意思があり準備していたことを証明できるようにしておくのが望ましいです。

会社設立前の費用は「創立費」

会社設立前の費用

「創立費」と「開業費」はいずれも会社の設立にかかる費用という点で共通していますが、明確な違いは時期にあります。

一般的に、会社設立準備から設立までにかかった費用は創立費として経理計上が可能です。

創立費という科目は法人特有のもので、法人登記するまでにかかった費用を指すため、個人事業主は創立費として計上できません。

創立費となる項目

創立費として計上できる主な項目は以下のとおりです。

  • 定款・諸規則の作成費用
  • 株式募集その他のための広告費
  • 株式目論見書、株券等の印刷費
  • 発起人が受ける報酬
  • 証券会社の取引手数料
  • 金融機関の取引手数料
  • 設立時の登録免許税
  • その他会社設立事務に関する費用
  • 司法書士・行政書士などへの報酬 など

たとえば、会社設立の際には法律上、定款の作成、公証人からの認証、設立登記の申請など様々な手続きを行うように定められていますが、これらの手続きを行うには法定費用が必要となり、創立費として計上できます。

会社設立後から営業開始までの費用は「開業費」

会社設立後から営業開始までの費用

法人が会社設立から事業開始までにかかる費用のうち、特別に支払った費用は開業費として経費計上できます。

個人事業主の場合、会社設立前にかかった分も含め、開業までにかかった費用を開業費として扱われます。

また、開業後に発生した費用は、開業費にはならないため、それぞれの科目で処理する必要があります。

開業費となる項目

法人における開業費として経費計上できる主な項目は以下のとおりです。

  • 印鑑や名刺の作成費用
  • チラシなどの広告宣伝費
  • 会社案内・業務案内やパンフレットなどの作成費
  • 交際費・接待費(打ち合わせの際の食事代など)
  • 旅費交通費
  • 市場調査費 など

会社設立時は、周囲にビジネスを認知させる必要があるため、印鑑や名刺、チラシ、パンフレットなどの費用も開業費として計上することができます。

また、販売戦略や集客のために必要な市場調査費も開業費に含まれます。

なお、開業費に含まれるものに関しては、個人事業主と法人で異なる点にも注意が必要です。

個人事業主と法人の開業費における取り扱いの違い

開業費の考え方は、個人事業主と法人で少し異なります。

法人の場合、開業費は会社設立後、営業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出される費用です。

一方、個人事業主は会社設立前に発生した開業準備のための費用も、全て開業費として計上できます。

また、法人のように特別な支出とは限定されず、恒常的な費用も開業費にできるなど、広い範囲で認められています。

開業費とならないもの

開業費とならないもの

一般的に、以下の6点は開業費に含むことはできません。

  • 取得価額が10万円以上のもの
  • 仕入代金
  • 敷金・礼金
  • 事務所の家賃(法人の場合)
  • 事務所の水道光熱費(法人の場合)
  • 従業員の給料(法人の場合)

法人の場合と個人事業主の場合とでは、開業費の取り扱いが一部異なります。

法人は、開業のためだけに特別にかかった費用を開業費とすることができるため、その点にも留意しながら見ていきましょう。

取得価額が10万円以上のもの

1つあたりの取得額が10万円以上するパソコンなどの機材や店舗の備品などの購入費用は、開業費として認められません。

これは、固定資産に該当し、法律上「減価償却」という、それぞれに経費計上できる年数が決まっているため、開業費とすることができないのです。

そのため、それぞれ異なる償却期間に合わせて償却処理をする必要があります。

仕入代金

開業前に販売目的で購入した商品や材料などは開業のためのものではないため、開業費の取り扱いにはできません。

開業前の仕入代金は「売上原価」となるため、通常の経費として計上します。

商品や材料の仕入は、売上と直接関わるものなので、間違いがないように仕分しなければなりません。

敷金・礼金

敷金・礼金は一見開業費として扱えそうですが、原則開業費として取り扱うことは認められていません。

敷金に関しては、店舗や事務所を退去する際に返金されるものであり、将来戻ってくるものに関しては開業費用には含むことができないのです。

また、後で戻ってこない礼金は20万円以下のときは経費として処理でき、20万円を超えると 「長期前払費用」となり、 開業費と同じく繰延資産として償却します。

事務所の家賃(法人の場合)

事務所の家賃

個人事業主の場合、開業前に支払った事務所の家賃も開業費として計上できますが、法人の場合、それらは開業のためだけの費用ではなく、恒常的な支出とみなされるので、開業費にできません。

そのため、開業のために事務所を借りた場合、「地代家賃」などの経費の科目で仕訳する必要があります。

事務所の水道光熱費(法人の場合)

一般的に、個人事業主の場合は開業前に使用した電気・ガス・水道の公共料金、インターネットや電話の通信費を開業費に含めることはできますが、法人は開業のためだけに特別にかかった費用のみ開業費とすることができるため、これらを開業費に含めることはできません。

それぞれ「水道光熱費」や「通信費」などで処理します。

従業員の給料(法人の場合)

個人事業主は開業前の従業員の給料を開業費にできます。

しかし、法人の場合、給与などの経常的な支出に関しては、開業準備のために特別に支出した費用とは認められないため、開業費に含めることはできません。

創業費と開業費で節税するためのポイント

創業費と開業費で節税するためのポイント

創業費や開業費で節税をするために、以下のポイントを押さえておきましょう。

  • 費用が発生した際のレシートや領収書を保管する
  • 仕訳帳と減価償却資産台帳に正しく記帳する

レシートや領収書など、証拠が残っていなければ、いくら開業のために使われた費用であっても創業費や開業費としての計上が認められない可能性が高いです。

バスなどの交通機関のようにレシートや領収書が発行されないケースでは、自身で出金伝票を残すことで証拠を残せる場合があるので、いずれにせよ紛失にしないよう保管場所を決めてしっかり保管しておきましょう。

また、開業費が合わせて10万円を超えた場合、仕訳帳と減価償却資産台への正確な記帳が求められるため、忘れずに記帳してください。

会社設立前に必要なこと

会社設立前に必要なこと

会社設立には、様々な事務手続きが必要になりますし、他にも店舗や事務所の準備をしたり、電気やインターネットなどの設備を整えたり、オフィス用品を揃えたりと、行わなければならないことが多岐にわたります。

しかし、その前に会社の存続性について考えていなければなりません。

会社設立前にまずやっておくべきことは以下の3つです。

  • 事業計画書の作成
  • 集客の仕組みづくり
  • 資金繰り

詳しく見ていきましょう。

事業計画書の作成

会社設立後に経営をスムーズに進めていくためにも、会社を設立する目的を明確にし、綿密な事業計画書を作成しておくのが望ましいです。

事業計画書は、経営者の考えを整理するのに役立つほか、会社の方向性、ビジョンなどを従業員と共有する手段にもなり、取引先などに対しても示すことができます。

また、資金を調達する際に必要不可欠なものとなるため、会社設立前に実現性が高い事業計画をまとめましょう。

集客の仕組みづくり

開業したからといって、経営を軌道に乗せて売上を上げていかなければ会社を維持できません。

ですから、毎月どれくらいの売上が必要となり、どれほどの集客が必要になるかを事前に検討し、集客の仕組みづくりをする必要があります。

集客方法をあらかじめ考えておけば、ビジネスを持続させることにも繋がり、金融機関からの創業融資も受けやすくなります。

資金繰り

法律上は、資本金1円でも会社を設立できます。

しかし実際には、新たに会社を作るには手続きや準備にまとまった費用が必要です。

自己資金が足りない場合は融資を申し込んだり、補助金や助成金を活用したりと、資金繰りをする必要があります。

すぐにまとまった金額が手元に入るわけではないため、資金繰りについては前もって検討しておかなければなりません。

また、先述した事業計画書を作成しておけば、融資や出資を受ける際に役立つため、どのような事業に取り組んでいくのか、どのように集客をしよう考えているのかをまとめ、資金繰りの際提示できるようにするのが有効です。

創立費や開業費を理解して節税対策をしよう

創立費や開業費を理解して節税対策をしよう

会社設立にかかる費用は、設立前に支出していたとしても経費計上でき、将来いつでも費用にすることが可能な創立費や開業費をうまく活用すると、節税効果が期待できます。

しかし、創立費や開業費に計上できる範囲は限定されているほか、法人と個人事業主で異なるため、注意が必要です。

会社設立前後にかかる費用は、通常の会計処理と取り扱いが異なる特殊な科目であるため、不正が疑われやすくなります。

そのため、会社設立時には創立費や開業費についての理解を深め、取り扱いに十分気をつけながら会計処理を行いましょう。


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