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会社設立
法人化したら社会保険の加入は必須?個人事業主のときと何が変わる?
この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。
個人事業主が会社を設立し、それまで行っていた事業を継続することを法人化と言います。
法人化をすると、納める税金の種類が変わる、個人の所得と法人の所得を明確に分けるなど、さまざまな変化が生じます。社会保険の加入も法人化によって変わるものの1つです。
法人化すれば、社会保険への加入は必須となります。社会保険の加入にはメリットもあればデメリットもあります。事業が順調に成長し、これから法人化を検討している場合などは社会保険の加入の件も含め、法人化によって得られるメリットやデメリットをしっかり把握しておくことが大切です。
今回は、法人化による社会保険加入のメリットやデメリット、手続き方法などについてご説明します。
法人化すると社会保険の社会加入義務が生じる
個人事業主の方は、国民健康保険と国民年金に加入しなければなりません。一方、法人化したら社会保険への加入が必要です。
社会保険とは
社会保険には狭義の社会保険と広義の社会保険があります。まず、狭義の社会保険とは、健康保険と厚生年金保険、介護保険の3つを指します。一般的には、狭義の社会保険を「社会保険」と呼ぶケースが多くなっています。
また、狭義の社会保険に労働保険である雇用保険と労災保険を加えたものを広義の社会保険と言います。
全ての法人は社会保険に加入する義務がある
法人化した場合、厚生年金保険と健康保険、介護保険の狭義の社会保険に加入しなければなりません。個人事業主は、一部の業種を除き、常時5人以上の労働者を雇用している場合のみ社会保険への加入が必要でした。しかし、法人化すると、たとえ従業員を雇用しておらず、自分1人だけの会社であっても厚生年金保険と健康保険(年齢によっては介護保険)、社会保険に加入しなければならないのです。
労働保険の加入義務は1人でも労働者を雇用した場合
法人化した場合、労働者を雇っていなくても、狭義の社会保険には加入しなければなりません。しかし、労働者を1人でも雇用した場合には、狭義の社会保険に加え、労災保険に加入しなければなりません。また、労働者が雇用保険の加入要件を満たす場合には、雇用保険の加入義務が生じます。
社会保険に加入することで変わること
個人事業主が加入する国民健康保険、国民年金は保険料の全額を個人が負担します。しかし、社会保険に加入すると、保険料は会社と加入する個人が折半をし、負担することになるため、個人の保険料の負担額は法人化した方が軽くなるケースがほとんどです。
また、国民健康保険の場合は扶養という概念がありません。そのため、一定以上の収入がない配偶者や子どもがいる場合、配偶者や子どもの分の国民健康保険の保険料の負担も発生します。
法人化をして社会保険に加入するメリット
法人化によって社会保険に加入すると、次のようなメリットが生じます。
個人として負担する保険料が安くなる
先ほどもご説明しましたが、社会保険では健康保険料と厚生年金保険の保険料の半分は、会社が負担することになります。
個人事業主の場合、収入によって国民年金保険料の額は変動するため、事業が順調に成長するほど、個人が負担する保険料の額は大きくなります。しかし、法人化した場合、事業の売上によって社会保険料が変わることはありません。売上が上がっても役員報酬の額を変更しなければ、社会保険料の額がアップすることはないのです。
したがって、法人化すると会社が保険料を半分負担すること、法人の売上増によって保険料が上がることはないことなどから、結果として社会保険料を低く抑えられるケースが多くなっています。
扶養の制度がある
健康保険には、国民健康保険にはない扶養の制度があるため、1年間の収入が一定以下の配偶者や子どもを被扶養者とすることができます。被扶養者は社会保険料を支払う必要がないため、子どもが複数いる場合などは、健康保険料の負担を大きく減らすことができるでしょう。
老後の年金受給額が増える
厚生年金に加入すると、将来、国民年金と厚生年金の両方を受給できます。そのため、法人化した場合、仕事を引退した後に得られる年金の受給額が増えます。
疾病手当金の給付を受けられる
国民健康保険の場合、万が一、事業主が体調を崩し、貯蓄以外に仕事ができない期間の収入を補う術はありません。しかし、健康保険では怪我や病気などで仕事ができなくなった場合、賃金の3分の2程度の給付を受けられる疾病手当金を受けることができます。
万が一の場合、家族に遺せる遺族年金が充実している
国民年金に加入中に死亡した場合、遺族年金は子どもが18歳になる年度までしか給付されません。しかし、遺族厚生年金の場合、加入者と生計を同じくし、一定の収入要件を満たした配偶者は、生涯に渡って遺族厚生年金の受給を受けることができます。
従業員を雇用しやすくなる
個人事業主でも従業員を雇用することはできます。しかし、雇用する従業員が5人以上とならない限り社会保険に加入する必要がないため、従業員5人未満の個人事業主は社会保険に加入しないケースがほとんどです。
法人化すれば、社会保険の加入義務が生じ、従業員も社会保険の加入対象となります。社会保険に加入している事業所での就労であれば、万が一、病気になった場合や仕事中に怪我をした場合、仕事を失った場合でも、疾病手当や労災保険、失業保険の給付が受けられるため安心です。そのため、社会保険完備の職場は人材を募集する際に魅力となり、これまでよりも人材を採用しやすくなる可能性があります。
法人化をして社会保険に加入するデメリット
ここまで、法人化によって社会保険に加入することのメリットをご紹介してきました。しかし、社会保険の加入にはメリットが多い反面、デメリットもあります。社会保険の加入によって生じる主なデメリットをご紹介します。
会社の支出が増える
厚生年金保険料と健康保険料は、会社と加入者が半分ずつを支払います。また、労災保険は会社が全額負担することになり、雇用保険も会社と加入者の双方が負担することになります。そのため、従業員が増えれば増えるほど、会社が負担する保険料の額は大きくなるのです。
事業が順調に推移した場合は、社会保険料の負担が増えても、従業員を雇用したことによって得られるメリットの方が大きいでしょう。しかし、売上が少ないときには雇用保険料の負担は重くのしかかります。法人化後、すぐに従業員を雇う場合などは、会社の保険料負担額についてもチェックすることを忘れないようにしましょう。
社会保険の加入手続きをしなければならない
法人化し、社会保険の適用事業所となった場合、年金事務所や労働基準監督署などで、加入の手続きを行わなければなりません。また、従業員の入社や退社などがあった場合、扶養家族の異動があった場合なども、その都度手続きが必要です。
社会保険の加入によって必要となる手続きが増える点は、加入のデメリットになると言えるでしょう。
法人化後の社会保険加入手続きの方法
ここからは、法人化した場合に必要となる社会保険の加入手続きについてご説明します。社会保険の加入手続きには期限があります。法人化をする際には法務局での登記完了後、忘れずに手続きを行うようにしましょう。
健康保険・厚生年金保険の加入手続き
健康保険と厚生年金保険の加入手続きは、年金事務所で行います。また、必要書類は日本年金機構のホームページに用意されており、ダウンロードすることができます。窓口に提出する方法のほか、郵送で必要書類を送付したり、インターネットから申請することも可能です。
健康保険・厚生年金保険の加入時に必要な届出書は次のようなものです。
「健康保険・厚生年金保険新規適用届」
まず、法人化し、これから健康保険・厚生年金保険の適用を受けようとするときは会社設立から5日以内に「健康保険・厚生年金保険新規適用届」を提出します。このとき、法人登記簿謄本の原本の提出が必要です。法人登記簿謄本は、書類提出日からさかのぼり、90日以内に交付されたものを提出します。新規適用届内の⑨の項目で法人番号を選んだ場合は、法人番号指定通知書のコピーも必要です。
「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」
新たに健康保険・厚生年金保険項に加入する人についての届け出です。経営者が1人の会社を設立した場合でも、提出が必要になります。また、従業員を採用した場合にはその都度、提出が必要になる書類です。
「健康保険被扶養者(異動)届」
家族を扶養するときや扶養していた家族が扶養を外れる場合などに提出が必要になる書類です。また、被扶養者の名前が変更になった場合などにも提出をしなければなりません。経営者が家族を扶養している場合にも提出が必要ですが、従業員が家族を扶養に入れる場合や家族を扶養から外す場合にも提出の必要があります。
「健康保険・厚生年金保険保険料口座振替納付申請書」
健康保険料・厚生年金保険料を、金融機関の口座振替で納付したい場合に提出が必要になる書類です。この書類は、金融機関に提出します。2部、金融機関に提出し、金融機関が預貯金口座の照合を行ったうえで、1枚を年金事務所に送付されることが一般的です。
労災保険の加入手続き
経営者が1人だけの会社の場合、経営者は労働者には該当しないため、労災保険は適用されません。しかし、雇用形態にかかわらず1人でも従業員を雇用する場合には労災保険の加入が必要です。
労災保険の適用事務所になった場合は、次の書類を労働基準監督署に提出します。
「労働保険 保険関係成立届」
保険関係が成立した翌日から10日以内に提出しなければならない書類です。保険関係成立届は、労働基準監督署の窓口でもらえます。
「概算保険料申告書」
保険関係が成立した日の翌日から50日以内に提出が必要な書類です。保険関係が成立した日からその年度の末日までに、労働者に支払う見込みの賃金の総額に保険料率をかけて算出した額を概算保険料として記載します。労働保険の保険料は、年度当初に概算で申告し、納付することになっています。また、納付する保険料は概算での計算になっているため、翌年度の確定申告の際、確定保険料を算出し、清算します。
雇用保険の加入手続き
31日以上継続して雇用が見込まれる人であり、1週間の所定労働時間が20時間以上ある人を雇用する場合には、雇用保険の加入手続きを行わなければなりません。雇用保険の手続きをする際には、労働基準監督署に提出した労働保険保険関係成立届の事業主控えが必要になります。雇用保険の加入手続きより先に、労働基準局での手続きが必要となるため注意しましょう。
「雇用保険適用事業所設置届」
雇用保険の適用を受けるために必要な書類で、雇用保険の加入要件を満たす従業員を雇用した日の翌日から10日以内にハローワークへの提出が必要となります。
「雇用保険被保険者資格取得届」
雇用保険の被保険者の資格を取得するため、雇用保険に加入する人の名前等の情報を届け出る書類です。雇用保険の加入要件を満たす事実があった日の翌月10日までにハローワークへの提出が必要です。
雇用保険の加入手続きのために作成しなければならない書類は上の2点ですが、提出の際には事業所の実在や事業の種類、事業開始年月日等を証明できる書類の提出も必要です。
法人の場合は、
・登記事項証明書
・事業許可証
・工事契約書
・不動産契約書
・源泉徴収簿
・他の社会保険の適用関係書類等のいずれかを確認できる書類の添付が必要になります。
また、労働者の雇用実態と賃金の支払い状況を証明できる次の書類の提出も必要です。
・労働者名簿
・賃金台帳(雇い入れから現在まで)
・出勤簿またはタイムカード(雇い入れから現在まで)
・雇用契約書(有期契約労働者の場合)
まとめ
法人化したら、社会保険に加入しなければなりません。たとえ、従業員を雇用せずに、経営者1人の会社を設立したとしても、健康保険と厚生年金保険の加入が必要です。健康保険と厚生年金保険の保険料は、会社が半分を負担することとなり、子どもや配偶者を被扶養者とすることができるため、法人化すると個人が負担する保険料を軽減できます。また、従業員を雇用した場合には労災保険や雇用保険への加入も必要です。
法人化によって社会保険の加入義務が生じると、従業員分の保険料の半分は会社が負担しなければなりません。しかし、社会保険を完備し、働きやすい環境を整えれば従業員も安心して働けるようになるため、人材を募集しやすくなるでしょう。
社会保険の加入手続きは煩雑になり、書類の提出期限も決められています。法人化に伴い、社会保険の加入義務が発生したときは、遅滞なく手続きを済ませるよう注意しましょう。
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