2024.09.18

会社設立

会社設立時に知っておきたい税金対策と法人化の節税メリット

この記事の監修者

松本 崇宏

税理士法人松本 代表税理士

松本 崇宏(まつもと たかひろ)

お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。

会社設立は税金対策になるという話を耳にした方もいらっしゃるでしょう。では実際、会社を設立するとどのような点が節税につながり、税金対策となるのでしょうか。

実は、会社の設立時にも税金対策を考えることによって、法人化後に得られる節税メリットは変わってきます。会社設立を検討するのであればしっかりと税金対策も考えたうえで法人化した方が賢明です。

今回は、会社設立によって得られる節税メリットと節税効果を最大限に発揮させる節税対策についてご説明します。

会社設立が税金対策につながる理由

個人事業主の場合、事業が順調に成長し、売上や利益が拡大していけばいくほど納めるべき税金は大きくなります。納税の負担が大きくなるようであれば、会社を設立し、税金対策を始めた方が節税できる可能性が高まります。

会社の設立がどのような節税につながるのか、税金対策となる理由をご紹介します。

役員報酬を損金算入することで法人税を節税できる

個人事業主の場合は、事業の利益がそのまま収入となり、所得額に応じた所得税が課せられます。一方、会社を設立して役員となった場合、会社から役員報酬を受け取る形で個人の収入を得ます。一定の要件を満たせば、役員報酬は損金算入ができるため、役員報酬分を事業所得から差し引けば、法人税の課税所得額を低く抑えられるのです。

加えて、法人税の税率は、一定のラインを超えると所得税の税率よりも低くなります。したがって、ある程度の収益を上げられるようになったときは、会社を設立して役員報酬を支払い、法人の所得を減らすという税金対策を行うことで節税を図ることが可能です。

給与所得控除が利用できる役員報酬で節税ができる

役員報酬を受け取るようになると、役員報酬は給与所得と同等に扱われ、個人の所得税を計算する際に、給与所得控除が適用できるようになります。青色申告をしている場合であっても、個人事業主が受けられる特別控除は最大65万円です。しかし、給与所得の場合、控除額は65万円~220万円となります。したがって、事業所得が大きくなってきた場合には会社を設立し、控除額が大きい役員報酬として受け取ることで税金対策となるのです。

家族の雇用も税金対策として有効

家族を役員に就任させたり、従業員として雇ったりすると、家族に対して役員報酬や給料を支払うことができます。家族に給与や役員報酬を支払えば、家族の中で所得が分散され、それぞれに給与所得控除が適用されるために、節税につながります。

個人事業主の場合も、同一生計で暮らしている配偶者や親族に対し、事業専従者として給与を支払うことができます。しかし、事業専従者として給与を支払った場合、専従者給与を受け取った人は配偶者控除や配偶者特別控除、扶養控除の対象から外れてしまうなどの問題もあります。

さまざまな制約がある専従者給与に比べると、会社を設立し、家族を役員や従業員として、事業に従事してもらった方がメリットは大きくなるといえるでしょう。

退職金を経費にできることで節税ができる

個人事業主の場合、退職金を支払うことは認められていません。しかし、会社設立をした場合、5年以上勤続した役員や従業員については、退職金を支給することができます。退職金は損金算入できるため、課税所得額を圧縮でき、法人税の節税につながります。

また、退職金は退職所得となり、退職所得控除が適用され、退職金を受け取る際には個人の所得税も節税することができます。

ただし、個人事業主の場合は小規模企業共済制度やiDecoなどを利用することで、税制優遇を受けることも可能です。

赤字になっても10年間繰り越しができる

会社設立によって法人化すると、事業で赤字が発生した場合、10年にわたって赤字を繰り越せるようになります。赤字を繰り越すことができれば、黒字のときの所得を圧縮できるため、節税につながります。

個人事業主の場合、青色申告をしていても赤字を繰り越すことができるのは最大3年間です。法人化すると、10年にわたって赤字の繰り越しができるという点は、節税対策として有効であるとともに、事業を安定して経営していくうえでメリットが大きいでしょう。

消費税の納税義務免除の適用による節税

会社設立による税金対策は、所得税や法人税だけの節税効果をもたらすだけではありません。会社設立によって消費税も節税できるケースがあります。

個人事業主であっても、年間の課税売上高が1,000万円を超えた場合には、翌々年に消費税の納税義務が生じます。しかし、消費税の課税事業者になる前に、会社を設立して法人化すると、個人事業主の間の売上はリセットされるため、会社設立のタイミングから最大で2年間消費税の納税義務免除を受けられる可能性が生じます。

ただし、消費税の納税義務免除が適用されるためには、資本金の額が1,000万円未満でなければなりません。また、事業開始年度のうち前半の6ヶ月間で消費税の課税対象となる売上高が1,000万円を超えないこと、または、事業開始年度のうち、前半の6ヶ月間に支払う給与及び賞与の合計額が1,000万円を超えないという条件も満たす必要があります。

消費税の節税効果を得られるタイミングを考慮して会社設立を検討する場合には、資本金の額や事業化しから6ヶ月間の売上や給与・賞与の支給額に注意しましょう。

生命保険の保険料を損金算入できることによる節税

会社を設立すると、会社が法人生命保険と契約することで、保険料を経費として計上できるようになります。個人事業主の場合、個人が加入する生命保険の保険料は、経費として計上できません。また、生命保険料控除には適用限度額があり、その額は最大でも年間12万円です。そのため、会社設立後、会社が契約者となって生命保険に加入すれば、保険料を所得から控除できるため、法人税の節税につながります。

ただし、保険を解約した際や満期の際には課税されるため、生命保険の加入によるメリットは一時的な節税ということになります。したがって、受け取りによって法人税の負担額が増える場合には、経営者に支払う退職金や設備投資などで税金対策を講じることも必要となってきます。

出張日当を経費として計上ができることによる節税

個人事業主の場合、出張にかかった実費は経費として計上ができますが、それ以上の費用を経費とすることはできません。しかし、会社を設立すると交通費や宿泊費以外に、通常とは異なる場所、異なる業務を行ったことに伴う慰労や発生する雑費を補填する費用として出張日当の支給ができます。出張日当を支払う際には、就業規則や出張旅費規程などで、基準を設けておく必要がありますが、出張日当も経費として計上ができるため、法人税の節税につながります。

会社設立時により検討すべき税金対策とは

会社設立が税金対策になる理由についてご説明してきましたが、会社設立時にも税金対策として注意したい点をご紹介します。

節税につながる資本金の額

株式会社や合同会社を設立する際には、資本金を定めます。1円以上であれば会社は設立できますが、資本金の額によっても節税効果は変わってきます。

・法人税の観点から

法人税は、資本金が1億円を超えるかどうかによって税率が変わってきます。資本金1億円以上の会社の場合、所得金額にかかわらず23.2%の税率が適用されますが、資本金1億円未満の会社であれば、所得金額が800万円以下の部分については、税率が15%となる軽減税率が適用されます。

したがって、法人税の節税を考えるのであれば、資本金は1億円未満に抑えた方が賢明です。

・法人住民税の観点から

法人住民税は、法人税割と均等割で構成される地方税です。法人税割は、法人税の額に応じて一定の割合をかけて算出しますが、均等割については資本金の額と従業員の数によって細かく区分されています。資本金については、1,000万円、1,000万円超~1億円以下、1億円超~10億円以下、10億円超~50億円以下、50億円超で区分されます。最も負担額が小さくなるのは、資本金が1,000万円以下の会社です。

法人住民税の負担額を抑えたい場合には、資本金を1,000万円以下にした方が節税につながります。

・消費税の観点から

前述のように、消費税の納税義務免除を適用するためには資本金の額が1,000万円未満でなければなりません。また、会社設立後2期目の期首時点で資本金の額が判断されるため、設立時は1,000万円未満の場合でも、増資によって1,000万円を超えてしまうと適用対象外となる点に注意が必要です。

・中小企業投資促進税制の観点から

中小企業投資促進税制とは、機械装置等の対象設備を取得したり、製作したりした場合に取得価額の30%の特別償却、または7%の税額控除を受けられるものです。法人が税額控除を選択する際には、資本金3,000万円以下である必要があります。

対象設備は1台160万円以上の機械や装置1つのソフトウェアまたは複数の合計額が70万円以上のソフトウェア、1台120万円以上または1台30万円以上かつ複数台の合計が120万円以上となる測定工具や検査工具などです。

・欠損金の繰り戻し還付の観点から

欠損金の繰り戻し還付とは、欠損金(赤字)を翌期以降に繰り越さず、前期の所得と通算して計算し、前期に納めた法人税を還付してもらう制度です。繰り戻し還付の請求ができるのは資本金1億円以下の青色申告をしている企業です。

・接待交際費の観点から

接待交際費を損金算入できる上限額も資本金の額によって異なります。接待交際費を経費として計上できれば、所得を圧縮できるため、法人税の節税につながります。

資本金が1億円以上の企業の場合は、次のいずれかの金額を選択して、損金算入することができます。

・年800万円まで

・接待交際費のうち、接待飲食費の50%まで

資本金1億円以上100億円以下の企業の場合は、接待飲食費の50%までの損金算入が可能となり、資本金100億円超の企業の場合は、接待交際費の損金算入は認められません。

事業年度の設定

会社設立時には、事業年度を決定する必要があります。事業年度をいつにするかによっても納税額が変わる可能性があります。

消費税の納税義務免除は、会社設立後2期までです。会社設立1期目は、事業年度開始日が設立日となります。そのため、会社設立日から事業年度終了日までの期間が短ければ、消費税が免除される期間は短くなり、節税効果が低下してしまいます。

会社設立による税金対策を図る際の注意点

会社設立は税金対策として有効なケースもあります。しかし、すべてのケースにおいて会社設立が節税につながるわけではありません。会社設立による税金対策を検討している場合は、次の点に注意が必要です。

会社設立にはコストがかかる

会社設立をすると、経営者の役員報酬や役員・従業員となっている家族に支払う役員報酬や給与を損金算入することで法人税を節税でき、所得税も軽減できるなどの税金対策が可能です。しかし、会社設立にはコストがかかります。

まず、会社を設立する際には、登記手続きに発生する登録免許税などの費用が生じます。株式会社を設立する場合にかかる費用は一般的に25万円程度です。

また、会社設立後は支払う税金の種類も変わってきます。個人事業主が支払う個人住民税は赤字の場合は、納税する必要がありません。しかし、法人住民税は、赤字であっても均等割分は必ず納税しなければなりません。

加えて、法人になると社会保険の加入義務が生じます。経営者や役員、従業員の厚生年金保険料と健康保険料は、会社が半分を負担しなければならないのです。支払う役員報酬や給与の額が高いほど、役員の数や雇用する従業員の数が多いほど、社会保険料の負担は大きくなります。社会保険料も、会社の業績にかかわらず支払いが必要となる費用です。

会社設立によって税金対策を実施した場合でも、節税できる金額よりも会社が負担する金額が増えてしまえば、会社設立を後悔する事態にもなってしまうでしょう。会社を設立する際には、税金対策だけを考えるのではなく、会社の設立費用、会社の維持費用なども考えながら法人化を検討することが大切です。

個人のお金と会社のお金は明確に区分される

個人事業主では、事業で得た収益はそのまま個人の財産となります。しかし、会社を設立すると、会社の事業で得られた収益は会社の利益となり、個人の財産とは明確に区分されます。会社を設立すると、経営者は、会社から役員報酬を受け取る形で収入を得ます。役員報酬の額は、原則として事業年度開始から3ヶ月以内でなければ変更することができません。また、変更できる回数は年に1回です。役員報酬の額を低くする場合には例外が認められますが、年の途中で役員報酬の額を高く変更する場合、損金算入が認められないため、法人税の負担額が大きくなります。

個人事業主の場合は、事業が好調になると事業収益が増え、事業収益の増加は直接個人の収入増加につながります。しかし、会社を設立すると、事業が好調で事業の収益が増える月があっても、1年間の役員報酬額は決められているので、個人の収入が増えることには直結しないのです。

また、経営者の個人的な事情で役員報酬の額を高く設定したい場合があっても、役員報酬の額を不相応に高く設定することはできません。役員報酬の額が職務内容や法人の収益状況、従業員の給与と比べて不相応に高い場合、税務調査で指摘を受ける可能性が高くなります。同規模・同業の他社の役員報酬と比べて不相応に高く設定されている場合も同様に、役員報酬額が適正でないと判断される可能性が高くなります。もし、税務調査時に役員報酬額が適正ではないと指摘されれば、損金算入が認められない可能性が出てくるのです。

個人事業主と異なり、会社を設立した場合は会社の利益によって自由に経営者が得る役員報酬の額を変えることはできません。会社設立後に後悔しないためにも、会社の利益と個人の収入が区別される点を事前にしっかりと理解しておきましょう。

まとめ

会社を設立すると、さまざまな面から税金対策ができ、節税できる可能性があります。ただし、会社設立をする際には費用もかかり、会社設立後は会社を維持する費用も必要となります。そのため、税金対策だけを重視し、会社を設立するとかえって会社として負担する費用が増えてしまう可能性もあります。したがって、会社を設立する前には、会社設立によって節税できる額と会社設立によって生じる費用を計算することが大切です。

また、会社設立時に資本金をいくらに設定するか、事業年度をいつに設定するかによっても節税効果は変わってきます。会社設立による税金対策の効果をより発揮させたいのであれば、さまざまな側面から資本金や事業年度を決定しなければなりません。

税理士法人松本では、これから会社設立を検討されている方のご相談を承っています。会社設立による節税効果を最大化するための税金対策についてもアドバイスをさせていただきますので、会社設立を検討されている場合にはお気軽にお問い合わせください。

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