2024.09.24

会社設立

一人親方が法人化を考えるべきタイミングとは。メリット・デメリットもご紹介

この記事の監修者

松本 崇宏

税理士法人松本 代表税理士

松本 崇宏(まつもと たかひろ)

お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。

一人親方として個人事業主としてきて働いている方の中には、そろそろ一人親方を卒業し、法人化した方が良いのではと考える方もいらっしゃるでしょう。しかし、一人親方が法人化する場合にはメリットもあればデメリットもあります。法人化することで増える負担もあるため、法人化にあたってはメリットとデメリットをしっかりと理解しておくことが大切です。また、法人化するタイミングによっても法人化で得られるメリットが変わってきます。

今回は、一人親方が法人化する際のメリットやデメリット、法人化に適したタイミングについてご説明します。

一人親方の法人化とは

一人親方は、人を雇用することなく、また人に雇用されることなく、直接施主や施工会社、請負会社などから依頼を受け、自分自身や家族とだけで仕事をする建設業などの事業主のことです。一人親方のほとんどは、個人事業主として開業されている方がほとんどでしょう。

これまで一人で事業を営んできた一人親方が法人化することとは、個人としての事業を廃止し、法人として会社を立ち上げることです。しかしながら、法人化にあたって全く関係ない事業を始めるわけではなく、一人親方として培ってきた経験や技術、取引先などはそのまま法人に引き継ぐことができます。そのため、これからより事業を大きくしていきたい、従業員を雇用して技術を後進に伝えていきたいといった希望がある場合、個人事業主として事業を続けるよりも法人化した方が良い可能性があります。

しかしながら、法人化にあたっては一人親方として事業を始めたときよりも複雑な手続きが必要になるため、法人化すべきかどうかについては慎重な判断が求められます。

一人親方が法人化するメリット

一人親方が会社を設立し、法人化した場合、主に次のようなメリットが得られます。

納税の負担が軽くなり、節税につながる

一人親方として事業を営んでいる場合、事業の所得に対して所得税と個人住民税が課せられます。所得税には、所得が高くなるほど税率が高くなる累進課税制度が用いられているため、事業が順調に進み利益が大きくなるほど、納めるべき税金の額は大きくなります。

しかし、一人親方が法人化した場合、法人の所得に対して課せられる法人税には累進課税制度は用いられていません。資本金1億円以下の法人の場合、税率は、年800万円以下の所得には15%、年800万円を超える部分の所得には23.2%となります。

所得税の場合、税率は最大45%にまでアップしますが、法人税はどんなに所得が高くなっても税率は23.2%以上、上がることはありません。

また、一人親方の場合、事業で得た所得はそのまま個人の所得となりますが、法人化した場合は、設立した会社から役員報酬という形で給与を得ることとなります。必要な手続きをとれば、役員報酬は経費として計上できます。売上から役員報酬分を差し引くことができれば、その分、課税所得額も圧縮できるため、法人税の節税にもつながります。

したがって、一人親方としてある程度の所得を得ている場合には、法人化した方が納税額を抑えられる可能性があるのです。

社会的信用度が高くなる

法人化するためには、資本金やさまざまな書類を提出し、法務局に法人登記をする必要があります。資本金や本店所在地の住所、事業の目的など法人登記の内容は、誰でも自由に閲覧が可能です。そのため、一般的には個人事業主よりも法人の方が社会的な信用を得やすいといわれています。

企業によっては、個人事業主との取引を避けたり、個人事業主との取引には上限額を設定したりといったルールを設けているケースもあります。しかし、法人化すれば、このようなルールを設けている企業とも取引が可能になり、一人親方として事業を営んできたときも取引先を拡大できる可能性が出てきます。取引先が拡大できれば、それに伴う売上のアップや事業の安定も期待できるでしょう。

社会的信用度が高まる点も、一人親方が法人化するメリットです。

人材を採用しやすくなる

事業を拡大したい場合や技術を継承していきたい場合、個人事業主では社会保険にも加入できないケースが多いため、求人を募集してもなかなか優秀な人材を採用することは難しくなります。法人化し、会社を設立すれば健康保険や厚生年金、雇用保険、労災保険なども完備され、社会的信用度も高くなるため、人材を採用しやすくなります。

法人も安定した取引先との取引を望みますが、労働者も安定したところを就業先に選ぶ傾向が強くなります。法人化すれば、一緒に働く人材を採用しやすくなるでしょう。

決算の時期を自由に設定できる

一人親方の場合、1月1日から12月31日までの1年間の事業の収支を計算し、翌年の2月16日から3月15日までの間に確定申告をしなければなりません。建設業の場合、毎年2月、3月の年度末にあたる時期は仕事が増える時期でもあります。繁忙期に確定申告の手間が重なり、大変な思いを経験されたことがある方もいらっしゃるでしょう。

しかし、法人化すると決算の時期は自由に決めることができます。そのため繁忙時期を避け、仕事が落ち着き、事務作業の時間がとりやすい時期を決算時期とし、負担を軽減することも可能になります。

一人親方に比べ、決算時期を自由に決められる点も法人化のメリットであるといえます。

赤字を10年に渡って繰り越せる

法人化すると、最大10年間、赤字を繰り越すことができます。個人事業主の場合、青色申告の申請をしていても赤字を繰り越せる期間は最大で3年までです。赤字を繰り越せる期間が長くなれば、赤字分を黒字と相殺できるため、課税所得額の圧縮ができ、法人税を節税できます。

事業に失敗した場合の個人の責任を限定できる

万が一、事業がうまくいかなかった場合、一人親方として事業を営んでいるときには、事業で生じた債務は個人の財産を使ってでも返済しなければなりません。個人事業主の賠償責任は無限なのです。

しかし、法人化し、株式会社や合同会社として会社を設立したときには、事業主の責任は出資額までに抑えられます。つまり、事業に失敗し、多額の負債を抱えた場合であっても事業主が背負う責任は出資した額までに抑えられ、個人の財産から全額を返済する必要がないのです。事業に失敗した際に背負うリスクを軽減できる点は、法人化の大きなメリットであるといえるでしょう。

事業承継がスムーズにできる

一人親方として事業を営んでいた場合、事業用の口座も個人の資産と見なされます。そのため、生前に事業を承継しようとする場合、事業用の口座にある資産や事業に使用していた不動産などは全て贈与の対象となり、贈与税の納税義務が生じます。また、事業を承継せずに亡くなった場合は、遺族が納めるべき相続税が高くなります。加えて、金融機関が死亡したことを把握した時点で口座が凍結されてしまうため、取引先などへの支払いが滞ってしまう可能性も出てきます。

法人化した場合、個人の財産と会社の財産は明確に区別されるため、事業を承継する際に贈与税や相続税などが発生することもありません。また、代表者が亡くなった場合でも法人名義の口座が凍結されることもないため、スムーズに事業の承継がしやすくなります。

一人親方が法人化することのデメリット

一人親方が法人化すると得られるメリットは多くあります。しかし、その一方で法人化による弊害が生じる可能性もあります。一人親方が法人化することで発生しやすいデメリットは次のようなものです。

法人化するには費用と手間がかかる

一人親方として開業する際には税務署に開業届を出すだけで済みましたが、法人化する場合には、必要書類を準備し、法務局で登記申請を行わなければなりません。登記をする際には登録免許税が発生します。登録免許税の額は、合同会社の場合は6万円または資本金の額の0.7%の額のいずれか高い方、株式会社の場合は15万円または資本金の額の0.7%の額のいずれか高い方となります。

また、法人化する場合には会社の原則的なルールをまとめた定款を作成しなければなりません。電子定款を作成する場合には不要ですが、紙の定款を作成する場合には4万円分の収入印紙を貼る必要があります。また、株式会社を設立する場合は公証役場で定款の認証を受ける必要があり、その際にも3~5万円程度の手数料が発生します。

一人親方から法人化する場合は、個人事業主を開業する場合と違ってさまざまな手続きが必要となり、費用もかかる点は法人化のデメリットといえるでしょう。

社会保険料の負担が増える

一人親方が法人化すると、社会保険の加入義務が発生します。個人事業主の場合は、国民健康保険と国民年金に加入しますが、たとえ親方が一人の会社であっても法人化した場合には、健康保険と厚生年金に加入しなければなりません。健康保険料は、標準報酬月額によって変わるため、報酬の額によっては社会保険料の負担が多くなる可能性があります。

また、健康保険と厚生年金の保険料は、法人と被保険者が折半して負担することとなります。そのため、常勤役員や従業員の数が増えた場合や支払う報酬の額が増えた場合、会社が負担する社会保険料の負担額も大きくなります。

加えて、従業員を一人でも雇用した場合には、労災保険と雇用保険にも加入しなければなりません。労災保険は、従業員が仕事中や通勤途中に事故や病気になった場合に備えた保険で、保険料は全額、事業主の負担となります。また、雇用保険は事業主負担分を企業側が負担しなければなりません。

社会保険料は、事業の状況にかかわらず納付が必要となるため、社会保険料の負担が大きくなればなるほど収支に与える影響は大きくなります。法人化する際には、会社設立時にも費用が発生しますが、事業を維持するためにも社会保険料の負担といった費用が発生する点を忘れないようにしましょう。

赤字でも納めなければならない税金がある

所得税や個人住民税は、所得がない場合、課税されません。したがって、一人親方として事業を営んでいるときには、何らかの理由で赤字になってしまった場合、税金を負担することはありません。しかし、法人化すると、赤字であっても必ず納めなければならない税金が発生します。それが法人住民税の均等割です。

法人住民税は、法人税割と均等割の2つから構成され、均等割は事業所得にかかわらず、資本金や従業員の数によって納付額が決められています。そのため、法人化した場合には、事業が赤字であっても法人住民税の納税が必要になるのです。

会計処理の負担が増える

法人化すると、決算書を作成し、法人税の申告書を作らなければなりません。一人親方の際に、確定申告の作業をご自身でされていた経験がある方もいらっしゃるでしょう。しかし、法人の場合、会計処理は複雑であり、専門的な知識がなければ正確に処理することは難しくなります。また、従業員を雇用する場合には、源泉徴収が必要になるため、所得税や住民税を計算し、給与計算や年末調整などの処理も必要です。事務処理の負担が増えれば、本業に避ける時間を圧迫してしまう可能性もあります。

法人化した場合、多くの企業は税理士などに会計や決算処理を依頼しています。税理士に支払う報酬の負担は必要となりますが、事務処理の負担を軽減でき、節税などについてのアドバイスも得られるため、法人化した際には決算処理などは税理士への委託を検討した方が良いでしょう。

一人親方が法人化するベストなタイミング

一人親方が法人化することで生じるメリットとデメリットを紹介してきました。では、一人親方が法人化する最適なタイミングはいつなのでしょうか。ここでは、一人親方が法人化を検討すべきタイミングを3つご紹介します。

課税所得が800~900万円を超えるタイミング

前述のように、所得税は所得額が増えるほど税率が高くなります。そのため、所得額が一定のラインを超えた場合、法人化した方が納める税金の額を抑えられる可能性があります。

社会保険料の負担や個人の所得税の負担なども考慮すると、課税所得額が800~900万円を超え、同等の規模で事業を継続できる、またはより事業を拡大できるような場合は、法人化した方が節税のメリットが大きくなります。

売上が1,000万円を超えるタイミング

売上が1,000万円を超えると、翌々年から消費税の課税事業者となります。したがって、売上が1,000万円を超えても最大で2年間は消費税の納税が免除されるのです。

一人親方が法人化する場合、個人事業主と法人は別人格として扱われます。そのため、法人化した場合、一人親方時代の売上はカウントされません。したがって、消費税の課税事業者となるタイミングで法人化すると、さらに消費税の納税免除期間が延長され、さらに2年間消費税の納税を免除される可能性があるのです。売上が1,000万円を超えるようなタイミングも法人化を検討すべきタイミングだといえるでしょう。

ただし、消費税の納税免除を受けるためには、資本金の額を1,000万円未満に抑えなければならない等の要件があるため注意が必要です。

事業を拡大したいタイミング

法人化をすることで社会的信用を高められます。社会的信用が高まれば、これまで個人事業主だからという理由で取引ができなかった相手とも契約を結べる可能性が出てきます。取引先が増えれば、必然的に事業規模を拡大できます。

また、社会的信用の獲得は人材採用にも良い影響を与えます。法人化し、人材を採用しやすくなれば、人手が増えることで請け負うことができる仕事も増え、事業を拡大できる可能性があります。

事業を大きく成長させたいと考えるタイミングも一人親方から法人化を検討すべきタイミングでしょう。

まとめ

一人親方が会社を設立し、個人事業主として営んでいた事業を継続していくことを法人化といいます。法人化をした場合、税負担を軽減できたり、社会的信用を高められたりといったメリットを得られます。また、事業に失敗した際の責任を出資額までに抑えられ、個人の財産を守れる点も、一人親方が法人化することで得られるメリットの1つでしょう。

一人親方が法人化をする際にはメリットもある一方で、デメリットもあります。しかしながら、法人化をするタイミングをしっかりと見極めることができれば、法人化をした方が自分の技術を継承でき、事業も後世に残しやすくなります。

税理士法人松本は、法人化を検討している一人親方からのご相談を承っています。法人化のメリットを最大化できるタイミングや法人化にあたっての節税ポイントなどについてもアドバイスが可能です。事業拡大などを目指し、法人化を検討されている場合にはお気軽にお問い合わせください。

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