2024.11.1

会社設立

会社設立費用1円でも大丈夫?メリット・デメリット、資本金を決める際のポイントを解説

この記事の監修者

松本 崇宏

税理士法人松本 代表税理士

松本 崇宏(まつもと たかひろ)

お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。

会社を設立するためには資本金が必要となり、近年では少ない資本金で会社を立ち上げる方も多いですが、現実的に考えて会社設立費用1円で起業することは可能なのでしょうか。

結論として、資本金1円でも会社設立は可能ですが、多くのリスクが伴うので注意が必要です。

本記事では、1円で会社を設立するメリットやデメリット、資本金を決める際のポイントについて解説します。

また、会社を設立するには様々な手続きが必要で、その際にかかる費用についても詳しく紹介していきます。

会社設立時の資本金設定に悩んでいる方は、ぜひこの記事を参考に、起業の準備を進めていただけたら幸いです。

1円の費用で会社を設立できる?

1円玉

最近では「1円起業」という言葉も注目されており、起業を検討している人の中には、少ない資金で会社を設立したいと考える方も多いでしょう。

実際、資本金1円の費用で設立できるため、起業ハードルは低くなっていますが、資本金以外にも費用がかかる点を押さえておく必要があるのです。

まずは、資本金や会社設立に必要な費用について説明していきます。

資本金とは

そもそも資本金とは、事業を円滑に進めるための元手となる資金です。

株式会社の場合、株主や投資家などの出資者から募った資金や、経営者の自己資金が資本金となります。

資本金の使い道は限定されていないため、会社のお金として設備投資や運転資金として自由に活用できますが、個人が自由に使えるお金というわけでなく、あくまで会社のお金として活用する必要があります。

資本金1円で会社設立は可能

以前の会社法では、新たに会社を設立するとなると、株式会社の場合は1,000万円以上、有限会社は300万円以上を最低資本金として準備しなければなりませんでした。

しかし、近年ではインターネットの普及、IT技術の進歩により事業形態も変わっていく中で、少ない資金で起業できるケースも増えてきています。

そして、2006年5月に新会社法が施行し、株式会社や合同会社などの会社形態によらず、資本金1円以上で会社を設立することが可能になりました。

会社設立には費用がかかる

会社設立費用

会社自体は、資本金1円でも設立できますが、実際には資本金以外に様々な費用がかかることを理解しておかなければなりません。

法人化するにあたっては、他にも以下のような費用がかかるのです。

  • 定款認証のための費用
  • 登記費用
  • 印鑑作成費用 など

法人化のための費用は会社の形態によっても異なりますが、株式会社の場合は20万円前後、合同会社の場合、10万円程度の費用が最低でも発生します。

会社設立後も維持費が必要

会社は設立してからも以下のような費用がかかります。

  • 税金
  • 社会保険料
  • 従業員への給料
  • 専門家への報酬
  • その他維持費

維持費としては、事務所の賃借料や光熱費、在庫管理費など様々なものが含まれます。

そのため、たとえ資本金1円で会社を設立したとしても、事業を維持していくためには様々なお金が必要であると認識しておく必要があるでしょう。

資本金1円で会社を設立するメリット

会社設立

先述しましたが、新会社法の施行により、資本金が1円でも会社を立ち上げることは可能です。

さらに、1円の資本金で会社を設立することは、事業者にとって以下のメリットがあります。

  • 費用を抑えて会社を設立できる
  • 個人事業主より信用度が上がる
  • 一定期間の消費税が免除される
  • 住民税を節税できる

大きなメリットとしては、資本金を少なく設定すると、節税できる可能性が高いという点です。

詳しく見ていきましょう。

費用を抑えて会社を設立できる

まず、会社設立にあたっての初期費用を抑えられるのが大きなメリットです。

株式会社では、経営者の自己資金を資本金としたり、出資者から資金を募ったりしなければならず、代表者が自由に使えるお金ではないため、これまで起業に踏み切れなかった人の中には、金銭的な事情があった方もいたでしょう。

現在では1円の資本金でも会社設立が可能なため、起業しやすくなっています。

個人事業主より信用度が上がる

個人事業主は資本金の出資がいらないため、すぐに事業をはじめられますが、法人登記されませんし、法人名義で事業を行えないため、社会的信用度は法人に比べて劣ってしまいます。

そのため、資本金が1円だとしても法人化することで信用度が上がるのです。

企業の中には、「法人相手でなければ取引をしない」というところも少なくありませんので、取引先を増やしたい、事業を拡大したいと考えている場合は資本金が1円でも会社を設立すると良いでしょう。

一定期間の消費税が免除される

会社設立時の資本金が少ない場合は一定期間、消費税の納付が免除されるため、節税効果が期待できます。

資本金が1,000万円未満の場合には、設立2年間は消費税の免除が行われるため、資本金1円であれば、免除されるのです。

消費税の納付は設立したばかりの会社にとってはかなりの負担となるため、大きなメリットであるといえるでしょう。

住民税を節税できる

法人住民税は資本金額が影響するため、資本金1円で会社を設立した場合、節税ができます。

法人住民税は法人税割と均等割で構成されており、均等割は、法人の資本金額や従業員の人数に応じて税額が変動する仕組みとなっています。

つまり、資本金が大きいと均等割の税額が大きくなり、反対に少ないと小さくなるため、資本金1円にすると均等割を減額でき、納付額を減らせるのです。

資本金1円で会社を設立するデメリット

資本金1円のデメリット

先述した通り、資本金1円で会社を設立することで多くのメリットがありますが、資本金が1円でも本当に大丈夫なのか不安に感じる方もいるでしょう。

資本金を1円で会社を設立すると、現実的に考えて以下のリスクがあるので、注意が必要です。

  • 社会的信用を得られにくい
  • 口座開設や融資に影響を及ぼす恐れがある
  • 許認可を取得できないことがある
  • 従業員の雇用が難しくなる

それぞれ詳しく紹介していきます。

社会的信用を得られにくい

資本金1円でも法人化すると、個人事業主よりは、対外的な信用度が増すでしょう。

しかし、資本金が少ないということは、会社基盤が弱いと見なされやすく、取引先からの信用が得られない可能性があります。

そのため、仕入れの量や取引できる金額の範囲が、資本金が多い会社に比べて小さくなる恐れがあるのです。

また、行政の補助金、助成金を申請する際に、会社の資本金が要件になっているケースも多く、必要な補助金や助成金を受けられないリスクもあります。

口座開設や融資に影響を及ぼす恐れがある

少額の資本金で設立された法人の銀行口座は、マネーロンダリングや詐欺に悪用されるリスクがあるため、金融機関の審査が厳しくなる傾向にあるのです。

また、一般的には資本金が多い方が融資審査に有利とされており、資本金1円で設立した会社に対しては、財政状態や資金力に問題有りと判断されやすく、審査に通りづらくなります。

また、借入ができる金額も資本金によって左右されやすいため、創業融資などを考えている場合は、その点を考慮しながら資本金額を決める必要があるでしょう。

許認可を取得できないことがある

事業によっては、監督官庁による許認可の条件として資本金の額が定められている場合があります。

具体的には以下のものがあります。

【許認可の取得に資本金が定められている業種】

  • 地域限定旅行業・・・100万円以上
  • 一般建築業・・・500万円以上
  • 有料職業紹介・・・500万円以上
  • 労働者派遣業・・・2,000万円以上 など

つまり、1円の資本金で設立した会社は、事業によっては許認可を取得できない場合があるので、注意が必要です。

従業員の雇用が難しくなる

資本金額は、登記事項証明書に記載される情報であり、誰でも自由に確認できます。

資本金は会社の資金力や将来性を判断するための1つの指標です。

求職者が会社の資本金額を確認し、極端に少ないと分かると、給与や残業代が支払われないのではないか、福利厚生がないのではないか、といったイメージがついてしまい、求職を断念するケースもあります。

そのため、従業員の採用がスムーズに進まず、事業をうまく運営することができなくなる恐れがあるのです。

資本金はいくらにする?決定するためのポイント

資本金の額

資本金を1円にするメリットやデメリットをご紹介しましたが、極端に少ない金額を設定すると、大きなリスクを伴うため、慎重に検討する必要があります。

ここでは、資本金を決める際のポイントを説明していきますので、資本金をいくらにするかお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。

運転資金で不安を残さないような金額に設定する

新たに会社を設立する場合、すぐに売上があがるとは限りません。

そのため、当面の間の売上が確保できなかったとしても、運転資金を賄える程度の資本金を設定しておくと安心できます。

事業が軌道に乗るまでの期間は会社によっても異なりますが、およそ3ヶ月〜6ヶ月分程度の運転資金を見込んで資本金を決めるのがおすすめです。

節税を考慮した金額に設定する

節税を考慮するのであれば、資本金を1,000万円未満に設定するのがおすすめです。

先述した通り、資本金額が1,000万円以上あると、消費税の納付義務が初年度から発生しますが、1,000万円未満の場合、設立2年間は消費税の免除が行われるため、税金の負担を抑えることができます。

また、法人住民税の均等割は資本金によって変動するため、法人住民税の負担を軽減させるために資本金額を少なくする方法もあるでしょう。

許認可を得るための最低資本金額に設定する

お金の計算

先述した通り、旅行業や建設業、人材派遣業などの業種では、許認可申請をおこなう際に、最低資本金を設定している場合があります。

会社を設立し、すぐに許認可の申請を行う場合は、資本金を設定されたもの以上にしなければなりません。

そのため、許認可が必要な事業を始める場合は、あらかじめ資本金要件を確認したうえで、資本金を用意する必要があるでしょう。

社会的信用度を考慮して設定する

資本金が極端に少ないと、取引先や金融機関からの信用を得られず、事業を進めていくうえで不利になる可能性が高いため、慎重に資本金の金額を決めなければなりません。

実店舗がある銀行口座の開設や銀行の融資を希望する場合、資本金はできれば100万円以上にするのが望ましいです。

いずれにせよ、資本金の額は事業を進めていく中で社会的信用度に直結すると理解し、資本金を設定しましょう。

税理士に相談して設定する

先述した通り、資本金は会社設立後の資金繰りや税金、会社の信用度にも影響するため、税務の専門家である税理士に相談して資本金額を決めるのも有効です。

会社設立時から税理士に相談すると、以下のメリットがあります。

  • 会社設立に必要な手続きを他の士業と提携して進めてもらえる 
  • 決算月の決め方や役員報酬の金額などのアドバイスがもらえる 
  • 創業融資や助成金・補助金を受けるためのサポートをしてくれる
  • 会計処理や税務処理の相談ができる
  • 決算申告や消費税申告書などの書類の作成や提出を代行してもらえる
  • 資金繰りなどのアドバイスをもらえる

会社設立前と会社設立後では、税理士に相談したい内容や得られるメリットが異なるため、あらかじめ税理士に何を相談したいのかを明確にしたうえで依頼する時期を決めるのがおすすめです。

リスクを抑えて会社を設立しよう

会社設立

理論上は資本金1円でも会社設立は可能です。

しかし、現実に考えて極端に少ない資本金に設定すると、銀行からの融資が受けられず借金を抱えたり、取引先や仕入先からの信用を得られずに事業がうまくいかなかったりと、倒産するリスクもあるので、十分注意してしなければなりません。

資本金は税金にも影響するため、多方面から考えて設定する必要がありますが、いくらにするか迷った場合は、税理士などの専門家に相談するのもおすすめです。

リスクを抑えて起業を成功させるためにも、少ない資本金で会社を設立するメリット・デメリットをよく理解し、自社に適した資本金を確保して会社設立の準備を進めていきましょう。


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