2024.11.6

法人化

美容室を法人化するタイミングとは?法人化するメリット・デメリットも徹底解説

この記事の監修者

松本 崇宏

税理士法人松本 代表税理士

松本 崇宏(まつもと たかひろ)

お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。

美容室は、個人事業主としても法人どちらでも可能ですが、経営状況によっては、法人化することで得られるメリットが増える場合もあります。

本記事では「美容室を法人化するタイミング」について紹介します。

他にも「美容室を法人化するメリット9選」や「美容室を法人化するデメリット4選」について解説していきます。

ぜひこの記事を参考にして、美容室を法人化するかどうか検討してみてください。

美容室を法人化するタイミング

美容室を運営する際、必ずしも最初から法人化する必要はありません。

法人化への移行には特定の時期が決められているわけではなく、事業主が適切だと感じた時に自由に法人化することができます。

しかし、法人化のメリットを最大限に享受するためには、タイミングが重要な要素となります。

具体的に、美容室を法人化するタイミングについては、以下の3つが挙げられます。

  • 売上が伸びてきた時
  • 美容室をさらに大きくしたい時
  • 銀行から新たに融資を受けたい時

それぞれのタイミングについて解説していきます。

売上が伸びてきた時

美容室の売上が増えると、それに伴い支払うべき所得税も増加するので、売上が伸びてきたタイミングで法人化することを検討しましょう。

個人事業主の所得税の税率は5%から45%の範囲で、所得に応じて段階的に変動するので、純利益が多くなるほど所得税の負担も重くなります。

最高税率に達した場合、所得税と住民税を合わせた税負担は55%に達し、利益の約半分が税金として徴収されることになります。

しかし、法人化することによって、最高税率は23.2%に抑えられ、大幅な節税が可能になります。

法人化によって節税効果が期待できるのは、純利益が約600万円を超える場合になるので、経営状態に応じて法人化のタイミングを検討することをおすすめします。

美容室をさらに大きくしたい時

売上が安定して順調に伸び、さらに美容サロンを拡大したいと考えているなら、法人化を検討するタイミングといえます。

法人化することによって、欠損金を10年間にわたって繰り越して控除することが可能になります。

実際に、サロンを大きくするには、より広いスペースを借りる、新しい椅子やシャンプー台を増やすといった設備の拡充が必要になります。

また、来店客数が増加すれば、シャンプーやトリートメントなどの消耗品の使用量も増えていくことも考えられます。

さらに、業務が拡大すれば、美容師や受付スタッフなどの人材も増員する必要が出てきます。

このように、法人化することで、欠損金を10年間にわたって繰り越して控除することが可能になるので、大胆な設備投資や人材採用に踏み切ることにつながります。

銀行から新たに融資を受けたい時

法人と個人事業主を比較すると、一般的には法人のほうが信頼度が高くなるので、銀行から新たに融資を受けたい際には、優位に進めることができます。

実際に、美容室の運営には多額の資金が必要ですが、自己資金だけで賄うのは難しいのも事実です。

個人事業主でも融資を受けることは可能ですが、法人の場合は融資を受けやすく、融資額も多くなる傾向があります。

美容室を法人化するメリット9選

美容室を法人化するメリットについては、以下の9つが挙げられます。

  • 社会的信用度が高くなる
  • 税金が安くなる
  • 経費計上できる範囲が広がる
  • 融資が受けやすくなる
  • 欠損金の繰越控除可能期間が10年になる
  • 求職者が集まりやすくなる
  • 有限責任になる
  • 役員報酬を設定できる
  • 事業継承しやすくなる

それぞれのメリットについて解説していきます。

社会的信用度が高くなる

法人化すると、個人事業主と比べて社会的な信頼度が高まり、それによって仕事の面で有利になる状況が増えるメリットが挙げられます。

また、法人は資本金の払い込みや決算情報の公開が求められるので、顧客に対して安心感を与えやすくなります。

そのため、個人経営の美容室と比べて、法人が運営する美容室の方が信頼性が高く、結果として安定した収益を得やすくなります。

税金が安くなる

法人化が有効です。法人化することで、所得に対する税率が抑えられるため、結果的に税負担が軽減されます。

具体的な税率については、以下のようになります。

  • 資本金1億円以上の会社: 23.2%の法人税が適用
  • 資本金1億円以下の会社: 年間利益が800万円以下の部分には15%の法人税、800万円を超える部分は23.2%の法人税が適用。

個人事業主の場合、所得に応じて最大で45%もの税負担が発生し、高所得者ほど税率が高くなるので、売上が増えたとしても、最終的な利益は半分以下になることも珍しくありません。

このように、一定以上の利益が見込める場合には、法人化を検討することで、税務上のメリットが得られます。

経費計上できる範囲が広がる

経費計上できる範囲が広がることで、節税効果が期待できます。

また、個人事業主は年間12万円までの保険料控除が認められていますが、法人にすることで、保険の種類に応じて3分の1から全額までの控除が受けられることがあります。

また、役員に支給する退職金も法人では損金として計上できるので、結果的に課税所得が減り、節税につながります。

このように、個人事業主よりも法人の方が節税効果が期待できるケースが多いといえます。

融資が受けやすくなる

法人化することで、社会的な信頼度が向上するので、金融機関からの信頼度も高くなり、融資が受けやすくなるメリットが挙げられます。

現在の段階で融資を受ける予定がなかったとしても、将来的に店舗の改装や新規店舗の開設などで追加の資金が必要になる可能性があります。

そのため、法人化することで設備投資のための資金調達もスムーズに行えるようになり、それが売上の向上にもつながります。

欠損金の繰越控除可能期間が10年になる

美容室を法人化することで、欠損金の繰越控除可能期間が10年になるメリットが挙げられます。

美容室を経営していると、常に利益が出るわけではなく、時には売上の大幅な減少などの理由で、赤字を計上する年度が発生するリスクがあるのも事実です。

赤字が大きい場合、3年という短い期間では控除を使い切れないリスクもありますが、10年間の猶予があれば、赤字額が多くてもその期間中に十分な節税効果を得られる可能性が高まります。

求職者が集まりやすくなる

美容室を法人化することによって、求職者が集まりやすくなるメリットが挙げられます。

美容室に限らず、多くの人々が就職や転職を考える際には、職場の安定性を重視する傾向があります。

そのため、個人事業主よりも法人の方が一般的に信頼されやすく、求人への応募者が増えるのは自然な流れです。

法人経営の方が優れた人材を確保しやすくなり、今後の運営にも大きな影響を与える重要な要因となります。

有限責任になる

法人化することによって、無限責任から有限責任になるメリットが挙げられます。

具体的には、事業が失敗した場合でも、会社の資産を清算することで対応でき、個人の財産には直接的な負担がかかりません。

一方、個人事業主の場合は無限責任を負うため、事業が失敗して多額の負債が残った場合、自身の私財を使って返済しなければなりません。

しかし、法人が借入を行う際には、社長が連帯保証人になることが一般的なので、最終的には社長個人の資産が差し押さえられるリスクがあることも理解しておきましょう。

役員報酬を設定できる

法人化することで、役員報酬を設定できるので、所得税および住民税を減らすことが可能です。

個人事業主の場合、売上に応じて所得税が課せられる一方、法人の場合は、役員に支払われる報酬に基づいて所得税が発生するので、個人事業主と比べて、所得税および住民税の負担を大幅に軽減することにつながります。

役員報酬の額は、売上高や利益に応じて調整する必要があり、法人税や所得税、住民税のそれぞれの影響を考慮しつつ、もっとも効果的な節税対策として適切な報酬額を設定することが重要です。

事業継承しやすくなる

法人化することで、役員の名義を変更するだけで事業をスムーズに引き継ぐことが可能となります。

税金の負担が軽減され、事業の継承が比較的容易になるというメリットもあります。

もし今後、事業の継承を視野に入れているのであれば、法人化を検討することも一つの手段といえます。

美容室を法人化するデメリット4選

美容室を法人化するデメリットについては、以下の4つが挙げられます。

  • 法人化するには費用がかかる
  • 手続きや会計処理が複雑になる
  • 社会保険に加入する必要がある
  • 役員報酬を設定したら1年間変更できない

それぞれのデメリットについて解説していきます。

法人化するには費用がかかる

会社の形態によって異なりますが、法人化するには費用がかかってしまうデメリットがあります。

株式会社を設立する場合には、登記手続きに伴う諸費用や印紙代などを含めると、おおよそ25万円程度の費用が発生します。

また、設立時には資本金も設定する必要があります。

法的には1円からでも資本金を設定することは可能ですが、現実的にはあまりにも低い資本金では信用を得るのが難しく、事業を円滑に進める上で十分な金額を用意することをおすすめします。

手続きや会計処理が複雑になる

個人事業主であれば、確定申告さえ済ませれば特に問題はありませんでしたが、法人化すると会計処理や手続きが非常に複雑で、多くの書類や申請が必要になります。

たとえば、定款や設立登記申請、役所や行政機関への提出書類が多岐にわたります。

法人としての税務や各種手続きを自分で行おうとすると、多大な時間と労力を費やすことになり、結果として本業の運営に悪影響を及ぼすリスクがあるのも事実です。

そのため、多くの法人化した事業者は、専門知識を持った顧問税理士に手続きを一任することが一般的です。

税理士に手続きを依頼することで、事業運営に集中できる環境が整い、効率よくビジネスを進めることが可能となります。

社会保険に加入する必要がある

法人を設立すると、社会保険への加入が法的に義務付けられています。

社会保険の費用は、会社と社員が均等に分担して支払いますが、役員が1名のみの法人の場合、実質的には同一人物が会社側と個人側の両方の負担を背負うことになります。

社会保険の費用は、一般的に役員報酬の約20%に相当するので、会社の利益にかなりの影響を与える要因となります。

役員報酬を設定したら1年間変更できない

役員報酬は毎年の期初に設定できますが、その後1年間は変更することができないので、慎重に設定する必要があります。

もし設定を誤ると、税負担が予想以上に増えてしまうリスクがあるのも事実です。

例えば、前年の業績が良好だったために報酬を高めに設定してしまうと、その後業績が落ち込んだ際でも報酬を変更できず、結果として所得税や住民税の負担が過度に大きくなることがあります。

逆に、業績が不調だからといって報酬を低めに設定すると、その後急に売り上げが増えた場合、法人税の負担が増えることになります。

そのため、役員報酬の額を決定する際には、短期的な収益の動向だけでなく、事業の中長期的な計画を見据えて、慎重に計画することが重要です。

節税目的だけの法人化は避ける

美容室を法人化する理由として、節税目的だけの法人化は避けるようにしましょう。

実際に、年間の売上が1,000万円を超えると、2年後から消費税の納税義務が生じるため、それを回避しようと法人化を検討するケースも多くみられます。

しかし、法人化によって赤字であっても負担しなければならないコストがいくつか発生するので、利益が十分に出ていない段階で節税のためだけに法人化するのはおすすめしません。

例えば、顧問税理士への支払いが毎月約5万円ほどかかることや、法人住民税の均等割として年間7万円の支払いが必要になることが挙げられます。

こうした固定費は、利益が少ない時期には、経営を圧迫することにつながる可能性があります。

美容室を法人化する目的を明確にしよう!

今回は、美容室を法人化するタイミングや美容室を法人化するメリット・デメリットを紹介しました。

美容室を法人化することには、メリットがある一方で、同様に考慮すべきデメリットも存在するので、慎重に検討したうえで、法人化の決断を下すことが重要です。

また、法人化のメリットを最大限に享受するためには、タイミングが重要な要素となります。

今回の記事を参考にして、美容室を法人化する目的を明確にしましょう。


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