2024.10.24

起業・開業

起業後に納める税金とは?知っておきたい法人と個人事業主の違い

この記事の監修者

松本 崇宏

税理士法人松本 代表税理士

松本 崇宏(まつもと たかひろ)

お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。

法人や個人事業主として起業すると、どのような税金を納めるのでしょうか。

個人事業主として起業すると確定申告の処理ができるか、法人として起業したら多くの税金を納めなくてはいけないのではないか、と
不安を感じている人もいるかもしれません。

法人と個人事業主では経理の範囲が異なりますので、納める税金も異なります。

起業後に納める税金について、ご説明します。

法人起業後に課税される税金の種類

法人として起業すると以下のような税金がかかります。

法人税、法人住民税、法人事業税の3つを総称して「法人税等」と呼びます。

法人に課税される基本的な税金について、ご説明します。

  • 法人税
  • 法人住民税
  • 法人事業税
  • 消費税及び地方消費税

法人税

法人として得た利益に対してかかる国税で、個人事業主で例えると所得税として納税するのが法人税です。

法人の種類や資本金額、年間所得金額によって税率が変動します。

普通法人の法人税率は、このようになります。

区分開始事業年度
2016年4月1日以後2018年4月1日以後2019年4月1日以後2022年4月1日以後
資本金1億円以下の法人など年800万円以下の部分下記以外の法人15%15%15%15%
適用除外事業者19%19%
年800万円超の部分23.40%23.20%23.20%23.20%
上記以外の普通法人23.40%23.20%23.20%23.20%

参照:国税庁|法人税の税率

このように法人税は税率が最大で23.20%となり、個人事業主が納める所得税よりも累進が緩やかであるという特徴があります。

法人住民税

法人住民税とは、事業所や会社の事務所がある地方自治体に納める地方税です。

個人事業主の個人事業税・個人住民税にあたる税金となります。

法人事業税は、法人税割と均等割によって構成されています。

法人の所得に基づいて計算されるものが法人税割で、従業員数や資本金の金額によって計算されるのが均等割です。

均等割は課税所得に関係なく計算されるものなので、赤字であっても納税義務があります。

法人事業税

法人税金

法人事業税とは、法人の所得に対して課される地方税です。

法人住民税は地域社会の一員として課される税金であり、法人事業税とは法人が行う事業に対して課される税金です。

事業活動を行うために地域サービスの提供を受けるため、必要な経費を分担すべきという考えから課されるものです。

参照:総務省|法人住民税・法人事業税

法人住民税はそれぞれ都道府県・市町村に納めますが、法人事業税は都道府県に納めます。

消費税及び地方消費税

消費税及び地方消費税は、個人事業主と同じ計算方式で求められます。

期首資本金が1,000万円未満であれば、1年目の消費税は免除されます。

課税売上高が1,000万円、もしくは特定期間の給与支払額が1,000万円以下の法人で、かつ期首資本金額1,000万円未満であれば2年目も免除となります。

ただしインボイス制度でインボイス登録している場合は、課税事業者となります。

課税売上高や資本金の額に関わらず消費税を納税する必要がありますので、注意しましょう。

個人事業主の起業後に課税される税金の種類

個人事業主として起業すると、以下のような税金が課税されます。

  • 所得税
  • 復興特別所得税
  • 個人住民税
  • 個人事業税
  • 消費税及び地方消費税

所得税

個人事業主所得税

所得税とは、自分で稼いだお金に対してかかる税金です。

1月1日から12月31日までに得た所得から、控除額を差し引いた所得に課税されます。

課税される所得金額に応じた税率と控除額がわかりますので、税額が簡単に求められます。

課税される所得金額税率控除額
1,000円~1,949,000円5%0円
1,950,000円~3,299,000円10%97,500円
3,300,000円~6,949,000円20%427,500円
6,950,000円~8,999,000円23%636,000円
9,000,000円~17,999,000円33%1,536,000円
18,000,000円~39,999,000円40%2,796,000円
40,000,000円45%4,796,000円

参照:国税庁|所得税の税率

所得税の税率は、このように所得に応じて税率が高くなっていき、
最大45%となります。

一方、法人が納める法人税は最大税率が23%となりますので、課税される所得金額が高額になればなるほど法人の方が優遇されるようになります。

復興特別所得税

復興特別所得税とは、東日本大震災の復興財源に充てるための特別税です。

期間は2013年1月1日~2037年12月31日までとされており、通常の所得税に2.1%を上乗せします。

2037年までの各年分の確定申告では、所得税と復興特別所得税を併せて申告しなければなりません。

参照:国税庁|個人の方に係る復興特別所得税のあらまし

個人住民税

個人住民税は、居住している地域に納める地方税です。

個人が支払うものであり、一般的に「住民税」といわれるものという解釈で間違いありません。

住所のある都道府県および区市町村へ納めるものであり、前年の確定申告によって納税額が決定します。

前年の所得金額に応じて決まる所得割と、定額で課税される均等割で構成されています。

例えば東京都の場合、京都の場合、都民税の税額は1,000円、区市町村民税の税額は3,000円となっています。

参照:東京都主税局|個人住民税

個人事業税

個人事業税とは、事業所得に基づいて納める税金です。

「法定業種」で「事業所得金額が290万円を超える個人事業主」が個人事業税の対象となります。

税率はの3%~5%と幅があり、ほとんどの業種が法定業種に該当します。

参照:東京都主税局|個人事業税

ほとんどの業種が該当しますが、事業所得が290万円以下の個人事業主は個人事業税がかかりません。

消費税及び地方消費税

個人事業主であっても、消費税は法人と同様に計算して納めます。

課税期間翌年の3月31日が納付期間となりますので、年度末日までに納税します。

インボイス制度に登録した個人事業主は、事業所得や事業年数に関わらず消費税を納める義務があります。

法人が使える税金の控除制度

法人控除

個人事業主は使えないけど、法人が使えるという控除制度がいくつかあります。

二重課税を避ける、雇用促進の政策を進めるという目的のため、法人の税負担を軽くするという制度が整っています。

法人が使える控除制度について、ご紹介します。

  • 中小企業向けの賃上げ促進税制
  • 一般試験研究費の額に係る税額控除制度
  • 中小企業投資促進税制

中小企業向けの賃上げ促進税制

賃上げ促進税制とは、一定の要件を満たした上で給与等の支払いを増加させた場合、増加額の一部を法人税から控除できるというものです。

奨学金の代理返還に充てる経費は賃上げ促進税制の給与等支給額の対象となり、税額控除率は最大40%です。

大きなメリットがありますが、デメリットもあります。

賃上げ促進税制は単発的な控除であり、毎年受けられるものではないという点です。

一度上げた給与を下げるわけにはいきませんので、長い目でみて賃上げを行っていくべきです。

参照:中小企業省庁|中小企業向け「賃上げ促進税制」

一般試験研究費の額に係る税額控除制度

一般試験研究費の額に係る税額控除制度とは、企業が研究開発を行っている場合に、法人税額から、試験研究費の額に税額控除割合(1%~14%)を乗じた金額を控除できる制度です。

引用:経済産業省|研究開発税制について

青色申告をしており、要件を満たす法人に適用されます。

試験研究費の額に一定の控除率(20%、25%または30%)を乗じて計算した金額を、法人税額から控除できます。

中小企業投資促進税制

中小企業投資促進税制は、中小企業における生産性向上等を図るため、一定の設備投資を行った場合に、税額控除(7%※)又は特別償却(30%)の適用を認める措置。

※税額控除は資本金3,000万円以下の中小企業者等に限る

引用:中小企業庁|中小企業投資促進税制

控除額や償却額が増えれば課税所得が減って、結果的に法人税を抑えられるようになります。

個人事業主が使える税金の控除制度

個人事業主控除

一方、個人事業主が使える税金の控除制度は以下のようなものとなります。

個人事業主は自身で確定申告をしていく必要があるため、控除制度についても理解しておきましょう。

  • 青色申告特別控除
  • 事業主控除

青色申告特別控除

個人事業主が確定申告をする際は、白色申告書と青色申告書のどちらかを選びます。

青色申告を申告しておくと、最大65万円の特別控除が受けられます。

同じ収入だとしても所得から65万円の控除がありますので、納める税金が少なくなります。

青色申告を行うには、承認を受けようとする年の3月15日までに税務署に「青色申告承認申請書」を提出しておきます。

参照:国税庁|No.2072 青色申告特別控除

事業主控除

事業主控除とは、個人事業税を計算する際に一律290万円が控除される仕組みです。

1年間の事業期間があれば290万円の控除となりますが、事業期間が1年間に満たない場合は月割した控除額が受けられます。

事業主控除の金額は一律290万円なので、所得が290万円以下の個人事業主には発生しません。

法人と個人事業主の税金の仕組みの違い

起業税金

法人と個人事業主では、税金や控除の仕組みに違いがあります。

なぜこのような違いがあるのか、法人と個人事業主の違いについてご説明します。

  • 経理の幅が異なる
  • 青色申告の欠損金を繰り越せる期間が違う
  • 法人の確定申告の控除額が大きい

経理の幅が異なる

法人と個人事業主では、根本的な経理の扱いが異なります。

個人事業主は事業主への給与という考え方はなく、売上からかかった経費を差し引いた金額が事業所得となります。

この事業所得には事業主の給与が含まれており、給与分も含めて課税対象となります。

一方、法人であれば経営者は会社から役員報酬を受け取ります。

役員報酬は経費として計上できますので節税になります。

さらに個人事業主では経費にならない社会保険関連も、法人では損金計上できます。

このように法人と個人事業主では、経費の対象が大きく異なります。

青色申告の欠損金を繰り越せる期間が違う

法人と個人事業主では、青色申告の欠損金を繰り越せる期間が違います。

青色申告をしている法人は、欠損金を最大10年繰り越せますが、
個人事業主は最大3年の繰り越しとなります。

欠損金とは赤字を指しますので、利益が出た年に過去の赤字と黒字を相殺でき、節税になります。

参照:財務省|欠損金繰越控除制度の概要

法人の確定申告の控除額が大きい

法人と個人事業主では、それぞれ税金を控除できるシステムがあります。

しかし総合的には、法人の方が確定申告の控除額が大きくなるといえます。

法人税の税率が一定である、給与を経費にできるという点が、個人事業主から法人化させる際のメリットのひとつとなるでしょう。

給与控除を受けられるようになり、個人の資産を会社の経費を明確に分けられるようになります。

起業する際の税金に関するよくある質問

起業税金質問

税金に関するよくある質問をまとめました。

  • いくら稼いだら個人事業主になりますか?
  • 個人事業主から法人化した方がいい年収はいくらですか?
  • 法人化した方がいい人とは?

いくら稼いだら個人事業主になりますか?

個人で事業を開始したら、年収に関係なく個人事業主です。

収入から必要経費を引いた所得が、年間20万円を超えたら確定申告が必要になります。

個人事業主から法人化した方がいい年収はいくらですか?

個人事業主としての所得が800万円~900万円になる頃が、法人化のひとつの目安だといわれています。

お伝えした通り、個人事業主の所得税の税率は所得に応じて最大45%ですが、法人税は800万円以上は一律23%と税率が抑えられるようになるためです。

法人化した方がいい人とは?

所得が800万円~900万円を超える個人事業主で、社会的信用を獲得したい人が法人化するといいでしょう。

法人化すると融資などの資金調達を受けやすくなる、法人でなければできない契約ができるようになるといったメリットがあります。

起業は税理士に相談を

起業時は事業の準備で業務が多くなりますので、税務関連で不安がある場合は税理士にご相談ください。

起業時の手続きやアドバイス、経理の相談や助成金についてサポートできる場合があります。

本業である事業に注力するためにも、税務関連はプロにお任せください。


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