メニュー
会社設立
トレーダーが法人化するメリットと検討すべきタイミングについて
この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。
トレーダーには、証券会社などにおいて顧客の注文を受け、株や債券などの売買取引を行う職業と個人の投資家であるデイトレーダーの両方を指すケースがあります。前者のトレーダーの場合は、会社に所属しているため法人化を検討する必要はありませんが、後者のデイトレーダーの場合は、法人化した方がより利益を高められる可能性があります。
そこで今回は、デイトレーダーが法人化するメリットや法人化の検討を始めるべきタイミングなどについてご説明します。
トレーダーの法人化とは
トレーダーの法人化とは、トレーダーが資産管理会社を設立し、設立した法人が事業として投資を行うことです。資産管理会社とは、一般的な企業のような営業活動は行わず、所有する資産の管理を目的に設立された法人を指します。
トレーダーのように株式やFXなど、投資を行っている人や不動産投資を行っている投資家などが法人化し、法人として投資を行うケースは少なくありません。では、なぜ投資家は法人化をするケースが多いのでしょうか。それは、法人化することでさまざまなメリットを得られるからです。
トレーダーが法人化する6つのメリット
トレーダーが法人化した場合に得られる主なメリットを6つご紹介します。
納税額を節税できる可能性がある
個人のトレーダーとして投資を行っている場合、投資で得た利益に対して所得税が課せられます。所得税は累進課税制度が適用されるため、利益が多くなればなるほど税率も高くなる仕組みです。
しかし、法人化した場合は、投資として利益を上げているのは会社であるため、会社に対し法人税が課せられます。法人税には、所得税のように利益が高くなるほど税率が高くなる仕組みはありません。したがって、投資によって一定以上の利益を上げているトレーダーの場合、法人化した方が納税額を抑えられる可能性があるのです。
損益通算が可能になる
複数種類の投資を行っている人の場合、全ての投資で利益を上げられない場合もあります。しかし、個人事業主の場合、損益通算の対象となる所得は不動産所得、事業所得、譲渡所得、山林所得に限定されています。そのため、FX株式投資で損失が出た場合でも、FXは先物取引による雑所得に該当するため、株式取引によって生じた譲渡所得からFX取引の損失を差し引くことができません。しかし、法人化すると会社の利益は一本化されるため、事業活動である投資によって生じた利益や損失は、全て通算できるようになります。
複数種類の投資を行っているトレーダーにとっては、法人化すると所得を区分する必要がなくなるため、損益通算が可能になり、節税につながるといったメリットがあります。
計上できる経費の範囲が広がる
個人事業主の場合、トレーダーとして得た利益がそのまま個人の所得となりますが、法人化すると、投資によって得た利益は個人の利益ではなく、会社の利益となります。法人化するとトレーダーは会社の代表となり、会社から役員報酬という形でお金を受け取ることになるのです。
役員報酬にはいくつかの種類がありますが、定期同額給与として支給する場合、経費計上が認められています。自分への報酬を経費として計上できれば、当然、課税対象となる会社の利益を圧縮できるのです。課税対象となる額が低くなれば、納税すべき税額も軽くなります。
また、個人事業主では退職金の制度はありませんが、法人化すれば、退職金としての積立金も経費として扱うことが可能です。
赤字の損失を最大10年間繰り越せる
投資にはリスクがつきものであり、投資で必ず利益を出せるわけではありません。経済状況などによっては、損失が出る年もあるでしょう。
個人事業主の場合、青色申告者であっても赤字を繰り越せるのは最大で3年間です。しかし、法人化すると最大10年に渡って赤字の繰り越しができるようになります。大きな損失が生じた場合でも、赤字分を繰り越す期間が長ければ、翌年以降の税負担を軽減できるため、事業を安定させやすくなるでしょう。
社会的信用を得やすくなる
トレーダーは、現状では社会的信用が高いとは言い難い状況にあります。しかし、法人化によって会社を設立し、事業として投資を行うようになれば、会社としての信頼を得やすくなるというメリットがあります。
法人化にはさまざまな手続きが必要ですが、法人化すれば会社の住所や役員などの情報は、誰でも閲覧できるようになります。そのため、会社の実態が把握しやすくなり、社会的信用も得やすくなるのです。
個人事業主として投資を行っている場合、住宅ローンに申し込んだ際、審査は厳しくなる傾向にあります。しかし、法人化して事業が順調に推移し、相当額の役員報酬を得ていることを証明できれば、住宅ローンの融資も良い条件で借り入れられる可能性があるのです。
社会保険に加入できる
個人事業主の場合、国民年金と国民健康保険に加入しますが、法人化すると厚生年金と健康保険の社会保険に加入できます。国民年金と国民健康保険では、保険料は全額自己負担をしなければなりません。しかし、社会保険では会社と被保険者が保険料を折半するため、個人が負担すべき保険料を軽減できます。
また、国民健康保険には扶養の概念がないため、子どものいる個人事業主の場合は、子どもの分の国民健康保険料も負担しなければなりません。一方、社会保険では子どもを扶養できるため、子どもの分の社会保険料の負担を軽減できます。
トレーダーが法人化する5つのデメリット
トレーダーが法人化する場合にはメリットだけではありません。次のようなデメリットが生じる恐れもあります。
法人化には費用と手間がかかる
個人事業主として開業する際には、最寄りの税務署に開業届を提出するだけで手続きは完了します。しかし、法人化する際には定款の作成や資本金の払い込み、法務局での設立登記など、より複雑な手続きが必要です。また、法人化すると、たとえ従業員がいない資産管理会社であっても、社会保険に加入する必要があり、社会保険の加入手続きも行わなければなりません。
加えて、法人化にあたっては費用も必要です。具体的には、紙の定款に貼付する印紙代、定款の認証を受ける際の手数料、登記をする際の登録免許税などがかかります。会社設立の手続きを専門家に依頼する場合には、専門家に支払う報酬も負担しなければなりません。
個人事業主の開業とは異なり、法人化には手間も費用もかかることを覚えておかないと、法人化を後悔する恐れもあるのです。
赤字でも負担が必要な税金がある
個人事業主の場合、収益が赤字になっても所得税や住民税が課されることはありません。しかし、法人化すると、たとえ会社の収益が赤字であっても、法人住民税の均等割分は納税する必要があります。法人住民税均等割は、会社の規模や資本金の額によって異なりますが、最低でも毎年、7万円の納税が必要です。赤字になっても税負担が必要になる点は法人化のデメリットだといえるでしょう。
法人化によって必ず節税できるわけではない
法人化によって節税ができるのは、一定以上の利益を上げている場合です。前述のように所得税と法人税の税率は異なります。一定以上の利益を上げている場合には、法人税の税率の方が所得税の税率よりも低くなるため節税につながりますが、得ている利益が低い場合は法人化しない方が課せられる税金は低くなる可能性もあるのです。
役員報酬は自由に改定できない
個人事業主の場合、投資で出た利益はそのまま個人の利益に直結します。しかし、法人化し、会社から役員報酬という形でお金を受け取るようになると会社の利益と個人の取り分は完全に切り離して考えなければなりません。
役員報酬の額は、自由に変更することができません。定期同額給与を改定できるのは原則として年に1回だけです。そのため、投資が好調で、大きな利益を上げているときであっても役員報酬を増やすことはできません。
また、法人化した場合、会社のお金は会社のお金として、事業のために使わなければならないため、個人事業主のように会社のお金を自由に使うことはできない点にも注意が必要です。法人化すると不自由さを感じるトレーダーもいないわけではありません。
複雑な会計処理が必要になる
法人化すると、個人事業主の場合よりも複雑な会計処理が必要になります。決算処理などについての専門的な知識がない人が法人の会計処理を行うことは困難であり、一人で全ての会計処理を行おうとすると、かなりの時間を要します。会計処理に時間をとられれば、本業である投資がおろそかになる恐れもあるため、多くの場合は、税理士などに処理を依頼しています。
税理士に依頼をした場合、税理士に支払う報酬の負担が必要になりますが、税理士への報酬は経費として計上が可能です。
トレーダーが法人化すべきタイミングとは
トレーダーの法人化にはさまざまなメリットもありますが、デメリットもあります。そのため、法人化は慎重に検討することが大切です。何を対象に投資をしているのかによっても法人化すべきタイミングは変わってきますが、一般的にトレーダーの法人化のタイミングは次のようにいわれています。
株式投資が中心の場合は法人化する必要がないケースも
トレーダーといっても、投資の種類によって課せられる税率は異なります。株の譲渡益に課せられる譲渡税率は、20%程度です。したがって、株式投資を中心に行っている場合は、所得額によって税率が変更することはないため、手間やコストをかけて無理に法人化する必要はないといえます。
FXや暗号資産などに投資している場合は800万円が目安
FXや暗号資産の取引で得られる利益は、雑所得に該当します。雑所得の所得税率は最大45%にも上るのです。
所得税と法人税の税率は次の表のようになっています。
法人化にした場合、法人税の負担が発生するとともに、トレーダー個人には役員報酬に対する所得税が課せられます。そのため、単純には計算はできませんが、一般的には所得額が800万円を超えたあたりから法人化を検討すべきといわれています。
<所得税の税率>平成27年分以降
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
<法人税の税率>
区分 | 税率 | |
資本金1億円以内の法人 | 年800万円以下の部分 | 15% |
年800万円を超える部分 | 23.2% | |
資本金1億円以上の法人 | 23.2% |
トレーダーの法人化は税理士に相談を
全てのトレーダーが法人化によってメリットを得られるわけではありません。また、トレーダーが法人化すべきタイミングも状況に応じて変わってくるため、個別の状況に応じた詳細なシミュレーションが必要です。
そのため、法人化を検討しているようであれば、本当に法人化をした方が良いのか、法人化する場合はどのタイミングがベストかについて税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
まとめ
トレーダーが法人化すると、複数の種類の投資の損益通算が可能になり、役員報酬を経費計上できるといったメリットがあります。また、投資の種類によっては法人化することで納税の負担を軽減できる可能性があります。
しかしながら、トレーダーの法人化にはメリットばかりでなくデメリットがあるのも事実です。法人化する際にはコストや手間がかかり、法人のお金と個人のお金は明確に区別しなければなりません。したがって、法人化によって自由度が低下すると感じるトレーダーもいます。
現在または、将来、法人化して投資を行うべきかどうかお悩みの場合は、税理士に相談し、適切なアドバイスを受けることをおすすめします。
免責事項
当ブログのコンテンツ・情報について、できる限り正確な情報を提供するように努めておりますが、正確性や安全性を保証するものではありません。 当サイトに掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。
税務・労務等のバックオフィス支援から
経営支援まで全方位でビジネスをサポート
本気で夢を追い求めるあなたの会社設立を全力サポート
- そもそも個人事業と会社の違いがわからない
- 会社を設立するメリットを知りたい
- 役員報酬はどうやって決めるのか
- 株式会社にするか合同会社にするか
会社設立の専門家が対応させていただきます。
税理士法人松本の強み
- 設立後に損しない最適な起業形態をご提案!
- 役員報酬はいくらにすべき?バッチリな税務署対策で安心!
- 面倒なバックオフィスをマルっと支援!
- さらに会社設立してからも一気通貫で支援