2024.12.1
  • 税務調査

住職やお坊さんには税金がかからない?お寺の納税義務とは

この記事の監修者

松本 崇宏

税理士法人松本 代表税理士

松本 崇宏(まつもと たかひろ)

お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。

「お寺の住職やお坊さんには税金がかからない」という話を耳にしたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、住職やお坊さんに税金がかからないという話は正しくありません。ではなぜ、住職やお坊さんには税金がかからないといわれているのでしょうか。

そこで今回は、住職やお坊さんには本当に税金がかからないといわれているのか、その理由やお寺の正しい納税についてご説明します。

 

住職やお坊さんに税金はかからないの噂の背景は?

「お寺の住職やお坊さんには税金がかからない」というのは誤りであり、住職やお坊さんも納税の義務があります。なぜ、住職やお坊さんには税金がかからないといわれるケースが多いのでしょうか。

住職やお坊さんに税金がかからないといわれる理由は、住職やお坊さんが行う宗教活動には税金がかからないことが関係していると考えられます。宗教活動には税金がかからないということが誤って解釈され、住職やお坊さんには税金がかからないと認識されているのです。実際には、住職やお坊さんも所得税や住民税の納付をしなければなりません。

 

住職やお坊さんの税金について

宗教法人の宗教活動については、税金はかかりません。しかし、宗教法人から住職やお坊さん、職員などが給与や報酬を受け取る場合、所得税や住民税が課税され、宗教法人は源泉徴収の義務を負っています。

 

源泉徴収義務者とは

法人や個人事業主が雇用している人に給与や一定の報酬を支払う場合、支払額に応じた所得税と復興特別所得税を予め給与や報酬から差し引き、原則として翌月の10日までに国に納めなければなりません。個人に代わって、事業主が雇用している人の税金を納めることを「源泉徴収」といいます。また、源泉徴収を行い、税金を国に納付する義務を負う者のことを「源泉徴収義務者」といいます。

 

宗教法人も源泉徴収義務者

従業員を雇用し、給与や報酬を支払っている企業はもちろん源泉徴収義務者ですが、学校や官公庁、社団法人、財団法人など、雇用している人に給与や報酬を支払う団体はすべて源泉徴収義務を負います。したがって、宗教法人も源泉徴収義務者であり、お寺も住職やお坊さんに給与を支払う際には源泉徴収を行わなければならないのです。

 

住職やお坊さんが支払うべき税金の対象

住職やお坊さんも、お寺から給与や報酬を受けた場合、前述のように給与や報酬から源泉徴収され、所得税と復興特別所得税、住民税を納税します。しかし、源泉徴収の対象となるのは、給与や報酬といった金銭で支給されるものだけではありません。現物で支給するものなども源泉徴収の対象に含めなければならない点に注意が必要です。具体的な例をご紹介しましょう。

 

宗教法人の所有する建物に住んでいる場合

一般的な企業の場合、従業員に住宅を無償または低い額で貸与しているケースがあります。そのような場合、一定の算式で計算された賃料相当額と実際に従業員が支払っている賃料との差額が給与所得とみなされます。そのため、賃料との差額分も源泉徴収の対象にしなければなりません。住職やお坊さんに対しても宗教法人の名前で借りている建物を無償または低額で貸与している場合は、賃料相当額との差額も含めて税額を計算する必要があります。

しかし、宗教法人では、お寺などの管理の必要があるため、お寺の境内などにある宗教法人が所有する建物に住職やお坊さんが無償で住むケースが多くなっています。その場合は、居住する場所が住職やお坊さんが住む家として相当なものであれば、職務上、お寺の近くに住む必要があると認められるため、源泉徴収の対象とはなりません。

 

住職やお坊さんにお寺が法衣を支給している場合

住職やお坊さんが宗教活動を行う場合は、法衣を着用します。その法衣をお寺から無償で住職やお坊さんに貸与している場合、法衣の購入費などを源泉徴収の対象にする必要はありません。なぜなら、法衣は宗教活動を行ううえで欠かせないものであると考えられるからです。

しかし、宗教活動のために使用する衣服ではなく、仕事を終えた後や休日に着用する衣服を無償で支給している場合、または貸与している場合は、衣服の購入額や貸与料に相当する金額を源泉徴収の対象に含まなければなりません。

 

住職やお坊さんの飲食代や生活費をお寺が支払っている場合

住職やお坊さんの飲食代や生活費は、宗教法人の支出ではなく、住職やお坊さん個人が負担すべき支出です。たとえば、葬儀場に向かう際に車を使用した場合、移動にかかったガソリン代は宗教活動のために必要になった支出ですが、プライベートの用途で車を使った場合のガソリン代は個人の支出に該当します。

そのため、住職やお坊さんの飲食代、生活費などをお寺が支払っていた場合、その負担額は住職やお坊さんの給与としてみなされます。源泉徴収をする際には、お寺が負担した個人の飲食代や生活費などの負担額は、給与に含めて計算をしなければなりません。

 

住職の子どもの学費などをお寺が負担している場合

宗教法人と個人の会計は明確にしなければなりません。そのため、住職の子どもの学費などをお寺が支払っている場合、学費として負担した額は住職に給与を支払ったものとしてみなし、学費も含めた額を対象に源泉徴収をする必要があります。

 

宗教法人に対する税務調査の特徴

宗教法人が宗教活動のみを行い、事業所得を得ていない場合は、宗教活動で得た収入に対して法人税や消費税はかかりません。しかし、宗教法人には源泉徴収義務があります。そのため、住職やお坊さんに支払う給与や報酬から正しく源泉徴収を納めていないと、税務調査の対象となり、指摘を受ける可能性があります。

 

税務調査とは

税務調査とは、納税者が適正に納税を納めているかどうかをチェックする税務署による調査です。税務調査の対象は、納税義務のある法人や個人であり、宗教法人も例外ではありません。

 

住職やお坊さんの源泉徴収はチェックされやすいポイント

税務調査では、調査官がお寺を訪れ、帳簿や領収書、請求書などを確認しながら、細かく申告内容のチェックをします。宗教法人の場合、宗教活動で得られた収益は非課税となります。しかし、宗教活動以外の活動で得た収益には法人税と消費税がかかります。そのため、宗教法人に対する税務調査では、宗教活動以外に収益がなかったのか、正しく申告を行っているかについて詳しいチェックが行われます。

また、宗教法人の税務調査でもう一つチェックされやすいポイントが、源泉徴収を正しく行っているかという点です。宗教法人と個人の会計を明確に分けて管理していない場合、源泉徴収の対象額が適正ではないと指摘される可能性が高くなります。

 

税務調査で申告の誤りが指摘された場合のリスク

宗教法人が住職の子どもの学費を支払っていたり、お坊さんの飲食代までを負担していた場合、その費用も給与や報酬の額に含め、源泉徴収を行わなければなりません。それにもかかわらず、給与や報酬として金銭で支給した分のみを対象に源泉徴収を行っていた場合、税務調査で納税額が不足していると指摘を受けることになります。

税務調査時に申告内容の不備が指摘されると、次のようなリスクが生じます。

 

不納付加算税の納税が求められる

不納付加算税とは、源泉徴収義務者が納付期限内に源泉徴収した所得税を納めなかった場合に課せられる税金です。正しく源泉徴収をしていなかった場合、源泉徴収すべき所得税額が不足しており、その不足分については納税が遅れているとみなされます。したがって、税務調査で申告内容に指摘を受けると、不足分の所得税・復興特別所得税の納税はもちろん、正しく申告を行っていたことに対するペナルティとして、不納付加算税も加えた税金の納付が求められるのです。

不納付加算税の税率は、条件によって異なり、税務調査で指摘を受けて納税する場合は不足分の税額の10%です。税務調査では、税務署から事前に電話などで連絡が入り、税務調査を実施する旨と実施日時についての通知があります。この通知を事前通知といいますが、税務調査の事前通知を受ける前に自主的に期限後納付をした場合、税率は5%に軽減されます。

 

延滞税の納付も必要になる

延滞税とは税金の納付が遅れたことに対するペナルティです。延滞税の税率は、令和6年1月1日から令和6年12月31日までは、納付期限の翌日から2ヶ月を経過する日までは2.4%、それ以降については8.7%となります。延滞税は日割りで計算されるものであり、法定納期限の翌日から納付が完了する日までの日数に応じて、延滞税の額は計算されます。そのため、納付が遅れれば遅れるほど課せられる延滞税は高くなる点に注意が必要です。

 

檀家からの信頼低下の恐れ

税務調査によって申告漏れが指摘され、追徴課税を課されれば、その噂が檀家に広がる恐れがあります。また、過去帳を確認したうえで檀家にまで調査が及ぶケースもないわけではありません。

地域の信仰の拠り所となっているお寺が、法に違反したと分かれば、檀家からの信頼も低下してしまう可能性があります。少子高齢化などの影響を受け、檀家離れが進んでいる今、檀家の信頼を失墜する行為は避けておきたいところではないでしょうか。

 

まとめ

お寺の住職やお坊さんには税金がかからないという話は、正しくありません。お寺の住職やお坊さんが受け取る給与や報酬には税金がかかります。税金がかからないのは、お寺の住職やお坊さんの個人の所得ではなく、宗教活動によって得た収入や宗教活動に使用する土地や建物にかかる法人固定資産税などです。

お寺は住職やお坊さんに対して支払う給与や報酬から所得税を差し引き、国に納付をする源泉徴収義務者です。また、プライベートな費用についてもお寺が費用を負担している場合にはその費用も含め、源泉所得税の計算をしなければなりません。源泉所得税を正しく納付していなければ、税務調査時に申告漏れを指摘されるリスクがあります。地域住民との良好な関係性を維持するためにも、正しく申告し、適正に納税することが大切です。

 


免責事項

当ブログのコンテンツ・情報について、できる限り正確な情報を提供するように努めておりますが、正確性や安全性を保証するものではありません。 当サイトに掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

 

税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。

全国からの税務調査相談実績 年間1,000件以上

  • 現在、税務調査が入っているので困っている
  • 過去分からサポートしてくれる税理士に依頼したい
  • 税務調査に強い税理士に変更したい
  • 自分では対応できないので、税理士に依頼したい
といったお悩みを抱えている方は、まずは初回電話無料相談をご利用ください。
税務調査の専門家が対応させていただきます。

税理士法人松本の強み

  • 税務署目線、税理士目線、お客様目線の三方良しの考え方でアドバイス
  • 過去の無申告分から現在まですべて対応可能
  • 査察案件から税務署案件までの経験と実績が豊富にあります
  • 顧問税理士がさじを投げた案件も途中から対応できます

30秒で完了かんたん税務調査リスク診断

あわせて読みたい記事

税務調査ブログをもっと見る

税務調査は対応次第で結果が大きく変わります!

税務調査お悩み解決しませんか?
いますぐ電話1本で相談できます!

専門家があなたの税務調査に関する不安を一つ一つ丁寧に解決。
初回有料相談は返金保証付きで、どんな小さなご相談も全国から承ります。

税理士法人松本代表税理士 松本 崇宏

30秒で完了かんたん税務調査リスク診断