2024.08.9
  • 税務調査

個人事業主必見!事業主貸が多いと、税務調査で指摘されるって本当?

この記事の監修者

松本 崇宏

税理士法人松本 代表税理士

松本 崇宏(まつもと たかひろ)

お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。

個人で事業を営む場合「事業主貸」という勘定科目を使用することがあります。もちろん、事業主貸は勘定科目の1つとして一般的に使用されているものであり、事業主貸として支出を計上しても何ら問題はありません。しかしながら、事業主貸として処理している金額が多いと税務調査で指摘されやすいという噂を耳にしたことはありませんか?
実際、事業主貸が多いと税務調査で問題になることはあるのでしょうか。
今回は、事業主貸が多い場合の税務調査時の対応法などについてご説明します。

 

事業主貸と事業主借は何が違う?

事業主貸は、個人事業主が複式簿記で記帳をする際に用いる勘定項目です。事業主借とともに事業主勘定と呼ばれ、事業用とプライベートのお金を分けて記帳するために用いられます。

 

事業主貸とは

事業主貸は、経費にはできない支出があった場合に使用する勘定科目です。漢字が示す通り、事業用のお金を事業主に貸す場合、事業主貸の勘定科目を使って仕訳をします。
事業用のお金を事業主に貸すとは、事業用のお金をプライベートの支出に充てると同じ意味です。したがって、事業用の口座から生活に使うための費用を引き出した場合などが事業主貸に該当します。また、事業用の銀行口座から所得税や住民税、国民健康保険料、国民年金保険料を支払った場合も事業主貸として計上します。

 

事業主借とは

一方、事業主借とは、事業主から事業用のお金を借りた場合に使用する勘定科目です。例えば、事業に必要な備品などを購入する際に、事業主個人が所有する現金や事業主がプライベートで使用しているクレジットカードなどで支払った場合に使用します。また、個人口座から事業用口座にお金を写した場合なども、事業主借として扱うことになります。

 

事業主貸が多いと税務調査の対象になりやすい?

税務調査は、納税の義務がある法人や個人を対象に実施される調査です。事業主貸が多いと税務調査の対象になりやすいのでしょうか。

 

税務調査の対象者はランダムに決まるわけではない

納税の義務がある人、つまり、所得を得ている人であれば誰でも税務調査の対象に選ばれる可能性があります。しかし、税務署は無作為に税務調査の対象者を選んでいるわけではありません。
税務調査は、不正に税金の負担を逃れようとする納税者に対して適正な納税を求めるものです。したがって、正しく納税をしている人よりも、申告内容などに何らかの問題があると思われる事業者が調査対象となるケースが多くなっています。

 

事業主貸が多い場合は、税務調査の対象になりやすい

税務調査の対象になりやすいのはまず、確定申告をしていない人です。また、確定申告をしていてもその内容に不審な点が見られる場合も、税務調査の対象になる可能性が高くなります。
事業主貸が多いだけで税務調査の対象になることはありません。しかし、所得額に対して事業主貸の占める割合が多い場合などは、申告内容に虚偽があるのではと疑われる可能性があるでしょう。したがって、事業主貸が不自然に多い場合、税務調査の対象に選ばれる確率は高まると言えます。

 

税務調査時に事業主貸が多いと生じる問題とは

事業主貸は経費としては計上できないお金、つまり生活費だと捉えられます。
税務署では、事業主貸が多ければそれに応じた所得が生じているはずだという判断するでしょう。したがって、事業主貸の額と申告された所得額の間に不自然さが認められる場合、税務調査では次のような点を指摘されることが多くなります。

 

売上の過少申告を疑われる

税務調査では、帳簿などを細かくチェックし、確定申告の内容に間違いがないかどうかを調べます。前述のように、事業主貸は事業主の生活費としてみなされます。そのため、申告している所得額に対して事業主貸として計上されている額が多い場合、調査官は所得額を少なく見せかけているのではないかと疑いを抱くようになります。
なぜなら、個人事業主の場合、事業の所得が事業主の生活に深く関係するからです。したがって、事業売上に対して事業主貸が不自然に多いと、本当はもっと売上があるのではないかという疑いが生じます。そのため、税務調査の際には、計上していない売上があるのではないか、売上が正しく計上されているかについて、詳細な調査が行われます。

 

不正が発覚した場合は過少申告加算税や重加算税が課される

税務調査時に売上の除外など、不正が発覚した場合は、修正申告が求められます。修正申告とは、正しい所得額を計算したうえで、本来納めるべき税額との差額を納税する手続きです。
また、修正申告をする際には、不足分の税金に加え、正しく申告を行わなかったことのペナルティとして、不足分の税額の10%に該当する過少申告加算税も併せて納付しなければなりません。尚、期限内申告税額と50万円のいずれか多い金額を超える部分については、15%の税率が課せられます。
さらに、仮装隠蔽があった場合など、税務調査によってより悪質であると判断された場合は、過少申告加算税に代え、35%の税率が適用される重加算税の納税が求められます。

 

事業主貸が少なすぎても問題になる?

事業主貸が多い場合、税務調査で売上の操作を疑われるとご説明しましたが、実は、事業主貸が少なすぎる場合でも問題点を指摘されるケースがあります。

 

事業主貸が少ない場合は生活費の捻出先を調べられる

事業主貸が少なすぎても、税務調査で指摘を受ける可能性があります。繰り返しになりますが、個人事業では、法人とは異なり、事業所得が個人の所得に直結します。そのため、事業主貸が少なすぎる場合、どこから生活費を捻出しているのかという疑問が生じるのです。
配偶者に収入があり、配偶者が生活費を負担しているケースもあるでしょう。また、前職で蓄えたお金があり、預貯金を生活費に充てているケースもあるはずです。事業主貸が少ない場合、正当な理由を説明できれば、何も問題はありません。
しかし、事業主貸が極端に少ない場合、実は、事業所得以外に所得を得ている可能性も考えられます。具体的には、不動産投資などで所得を得ている場合や親族から遺産の相続や財産の贈与があった場合などです。この場合、不動産所得や遺産相続、贈与に関する納税手続きが済んでいれば問題はありませんが、必要な手続きが行われておらず、正しく納税をしていないときには、税務調査で問題を指摘されるでしょう。

 

事業主貸の多少だけが問題になることはない

個人事業を営んでいる場合、事業主貸は生じるものです。しっかりと帳簿付けがなされており、事業主貸の額が不自然に多い額や少ない額でなければ、税務調査時に大きな問題に発展することはありません。また、たとえ事業主貸が多かったり少なかったりする場合でも、不正を行っていないのであれば、状況説明をすることで調査官も納得するはずです。
税務調査の連絡がきても慌てることのないよう、日頃から正しく記帳をしておくようにしましょう。

 

まとめ

事業主貸が多いだけで、税務調査時に指摘を受けることはありません。しかし、事業主貸が不自然に多い場合、売上を不正に低く装っているのではという疑いを抱かれ、税務調査の対象に選ばれる可能性が高くなります。税務調査の対象となった場合でも、正しく申告を行っているのであれば、何も心配することはありません。しかし、何らかの事情で売上の計上を忘れているような場合や売上の計上方法を間違えているような場合は、税務調査の対象となる前に税理士に相談することをおすすめします。
税務調査が実施される際には、原則として税務署から事前の通知が行われます。事前通知を受ける前に自主的に修正申告を行い、不足している額の納税を行えば、過少申告加算税は加算されません。また、事前通知を受け取った後でも、税務調査より前に自主的に修正申告をすれば、過少申告加算税を軽減できます。
事業主貸が多く、売上の計上に不安がある場合は、早めの税理士への相談をおすすめします。

 

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