2024.08.22
  • 税務調査

税務調査の「一筆」とは。調査官に依頼されたら断っても良い?

この記事の監修者

松本 崇宏

税理士法人松本 代表税理士

松本 崇宏(まつもと たかひろ)

お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。

税務調査を受けた際、調査官に書類への「一筆」を求められる場合があります。税務調査の場面で急に一筆を求められたら、書かなければならないものなのか、断っても良いのか判断に迷うケースもあるはずです。一筆に同意した場合と一筆を拒否した場合では、調査にどのような違いが生じるのでしょうか。
今回は、税務調査で一筆が求められるシーンと一筆が意味することについてご説明します。

 

税務調査で言われる「一筆」とは

まず、税務調査の際に必ず一筆を求められるわけではありません。むしろ、一筆を求められるシーンは決して多いわけではないのです。

 

一筆とは質問応答記録書への署名のこと

税務調査で調査官から 一筆書いてほしいと言われた場合は、質問応答記録書に署名をしてほしいという意味合いになります。質問応答記録書とは、税務調査時に調査官が納税者に質問をした内容とその回答を記載した文書です。
質問応答記録書は、調査官が作成した納税者とのやり取りの記録でもあり、署名があれば、納税者が書面の内容に同意したということの証明となり、証拠としての価値が高まります。そのため、調査官は税務調査終了後のトラブルに発展しないよう、納税者の同意を示す一筆を求めるのです。

 

調査官が一筆を求める理由とは

税務調査時に質問応答記録書への署名を求められるケースは多くはありません。なぜなら、税務調査時に一筆を求められるケースは、悪質な脱税が強く疑われる場合に限られるからです。つまり、税務調査時に、仮装隠蔽などの 悪質な行為が認められた場合は、確実に重加算税を賦課するため、納税者に質問応答記録書への一筆を求めるというわけなのです。

 

重いペナルティである重加算税

税務調査で、申告漏れや申告ミスを指摘された場合、正しく申告をしなかったことに対するペナルティである加算税の納付が求められます。加算税は、申告漏れや申告ミスの内容によっていくつかの種類に分けられていますが、このうち 最も重い加算税が重加算税です。
重加算税の税率は、納税額が少なかった際に課せられる過少申告加算税に代わる場合は35%、申告そのものをしていなかった場合に課せられる無申告加算税に代わる場合は40%にもなります。

 

税務調査時の一筆は、拒否した方が良い?応じた方が良い?

税務調査の際、調査官に一筆書くことを依頼され場合、一筆を拒否した場合と応じた場合でその後の流れがどのように変わるのかを理解しておかなければ、返答に困るはずです。
では、税務調査の際に署名を拒否した場合と応じた場合で、調査にどのような影響を与えるのでしょうか。

 

一筆は拒否することができる

まず、税務調査時に、質問応答記録書への署名を求められた場合、納税者は署名を断ることができます。 質問応答記録書への一筆には法的な強制力はなく、調査官に求められても拒否して問題ありません

 

一筆に応じるとメリットがある?

質問応答記録書に署名の記載を依頼される場合、調査官は重加算税の賦課を考えていると想定されます。そのため、その場で一筆書いた場合、納税者が不正な申告を行ったことや仮装隠蔽行為を行ったことを認めることを意味します。
重加算税は、税務署長が判断し、賦課するものです。納税者が仮装隠蔽を認める証拠となる一筆があれば、税務署長も重加算税の賦課決定をしやすくなるでしょう。さらに、納税者が税務調査の判断に不服を抱き、訴訟を起こした場合でも、一筆があれば裁判で仮装隠蔽行為はなかったと判断される可能性は低くなります。したがって、納税者が敗訴濃厚な状態のまま裁判に訴える可能性は低くなり、重加算税の賦課を決定しやすくなるのです。
また、 一筆に応じたことで重加算税の賦課を決定しやすくなれば、調査は早めに終了するでしょう。

 

一筆を拒否した場合はどうなる?

税務調査時に一筆を拒否した場合、調査官は、他の証拠を収集するためにより調査範囲を広げ、詳細な調査を続けるでしょう。そのため、 一筆を拒否すると税務調査が長引く可能性が高くなります。
しかしながら、一筆を拒否することで税務調査の結果が大きく変わることはありません。仮装隠蔽行為を行っていたようであれば重加算税は付加され、仮装隠蔽行為がなければ重加算税が付加されることもありません。したがって、質問応答記録書への一筆の記載を拒否した方が必ずしも良い結果を招くわけではないのです。
ただし、署名をする際には、質問応答記録書の内容をしっかり読み、内容に誤りがないかどうかを確認しなければなりません。質問応答記録書の内容に事実と異なる部分があるのであれば、調査官に訂正を依頼するようにしましょう。

 

税務調査で一筆を求められる状況を回避するためには

一筆に応じても、拒否しても、税務調査の結果が変わることはなく、一筆を求められる状況は重加算税の賦課対象となるような悪質な不正行為が疑われているという状況です。
重加算税が賦課されれば、多額の追徴課税が課される恐れもあります。大切なのは一筆を拒否することではなく、税務調査で一筆を求められる状況を招かないことです。

 

正しく申告をしていれば一筆を求められることはない

正しく確定申告を行っていれば、税務調査時に不正が疑われ、一筆を求められることもありません。一筆を求められるのは、仮装隠蔽行為など、悪質な税金逃れの行為が疑われる場合のみです。日頃から売上や支出を正しく管理し、ミスなく申告を行い、適正な額の納税をするように心がけましょう。

 

事前に税理士に相談する

正しく申告を行ってこなかった場合、重加算税が課される恐れがあります。税務調査の通知を受け、一筆を求められる状況が予想されるときには、税理士に相談することをおすすめします。
事前通知を受けた後でも、自主的に修正申告を行い、不足分の納税を行えば、加算税を軽減できる可能性もあります。スピーディーかつ正しい修正申告書を作るためには、専門家の力が必要になるでしょう。
また、税理士に相談すれば、税務調査当日の立ち会いを依頼できる場合もあります。税理士が同席すれば、調査当日の精神的な不安も軽減できるはずです。さらに、税務調査では解釈の違いによって、問題があるかどうかの判断が変わるグレーゾーンが存在します。税理士に対応を依頼すれば、調査官とのやり取りの中で、正しく納税者の主張を伝え、不要な指摘を避けることも可能です。

 

書面添付制度を利用する

税務調査の目的は、正しく納税を行っている法人や個人を調べるのではなく、正しく税金を納めていない法人・個人の納税を是正することです。税理士が確定申告の書類を作成する場合、申告書は正しく作成されていると考えられます。特に、書面添付制度に則り、税理士が申告内容の根拠や計算過程などを詳細に記した書面を添付した場合、税務調査の対象となる可能性が低くなります。
税務調査そのものを回避したい場合には、税理士と相談したうえで書面添付制度の活用を検討してみると良いでしょう。

 

まとめ

税務調査で質問応答記録書に一筆書いてほしいと依頼される状況では、調査の結果、悪質な不正行為が行われているとみなされており、調査官が重加算税の賦課を検討している可能性が高くなります。質問応答記録書への一筆を求められても、必ず署名しなければならないわけではありません。一筆の拒否は可能です。しかしながら、一筆を受け入れるか拒否するかによって、税務調査の結果が変わることはないと言えます。
税務調査前に自主的に修正申告を行えば加算税が軽減される可能性もあります。税務調査で一筆を求められ、重加算税を課されるリスクが高いと予想できる場合には、早めに税理士に相談することをおすすめします。

 

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