2024.11.17

法人化

法人化するのはメリットだけじゃない!あえて法人化しない理由とは

この記事の監修者

松本 崇宏

税理士法人松本 代表税理士

松本 崇宏(まつもと たかひろ)

お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。

個人事業主で所得が一定のラインを超えると、法人化した方が節税ができます。

他にも法人化にはメリットがいくつかありますが、一方でデメリットもあるのが現実です。

デメリットの負担が大きくなると感じる場合には、あえて法人化しないという選択肢もアリかもしれません。

法人化のメリットとデメリット、また法人化しないという選択肢についても考えてみましょう。

個人事業主と法人の違い

個人事業主とは、個人で開業届を出して事業を行う人を指します。

起業時のコストを抑えられ、事務手続きの負担がないため、スムーズに事業を始められます。

一方、法人とは法務局で法人設立登記をして事業を営む組織を指します。

個人事業主には所得税を納める義務があり、法人化すると法人税と課される税負担が異なります。

法人化するメリット

法人化メリット

個人事業主が法人化すると、以下のようなメリットがあります。

  • 社会的な信用度が高まる
  • 節税ができる
  • 社会保険に加入できる
  • 決算月を自由に設定できる
  • 有限責任になり個人の資産が守られる
  • 事業を長く継続できる環境になる

社会的な信用度が高まる

取引先を法人に限定している企業があるほど、法人というだけでビジネスチャンスが広がります。

個人事業主は誰でもなれますが、法人登記には労力だけでなく費用がかかります。

登記された内容は誰でも閲覧できるため、責任者や事業内容が一目瞭然です。

このように法人として経営体制を整えておくと、社会的な信用が高まります。

法人化させると「融資を受けやすくなる」「求人で優秀な人材を集めやすくなる」という一面があり、これらも社会的な信用があるからであると考えられます。

節税ができる

「法人化の目的が節税である」というケースは少なくありません。

個人事業主と法人では税率が異なり、個人事業主は累進課税制度で所得に応じて負担が増加しますが、
法人は比例課税方式なので所得が多いほど節税効果が高くなります。

また経費に計上できる項目の幅が広がり、個人事業主では経費にできなかった給与や退職金も法人であれば経費と認められます。

福利厚生として計上できる経費もありますので、
法人化は節税のメリットが大きいといえるでしょう。

社会保険に加入できる

法人化すると社会保険への加入が義務付けられていますので、必ず社会保険に加入します。

医療費の補助が手厚くなるので、怪我や病気になった時も安心して暮らせるようになります。

従業員を雇う場合は、保険料を折半して事業主が負担します。

従業員の労働環境を整えられるので、優秀な人材の確保ができるようになるでしょう。

決算月を自由に設定できる

法人化メリット

個人事業主は1月1日~12月31日までが事業年度となりますが、法人化すると決算月を自由に決められます。

業界によって繁忙期や閑散期がありますので、繁忙期には事業に専念できるようにしておきましょう。

個人事業主の頃よりも決算の処理が複雑になりますので、書類作成や手続きに時間をかけられるような時期を決算月にしておくといいでしょう。

有限責任になり個人の資産が守られる

有限責任とは、会社の不祥事などで倒産した場合に、
出資者は出資額を限度として責任を負うことを指します。

つまり出資額以上は責任を負わなくて良いという意味であり、社長個人の資産は守られます。

個人事業主は出資の範囲を超えて責任を負う、無限責任です。

無限責任だと個人の財産を使ってでも責任を負わなければいけません。

法人化して有限責任となると、心理的に出資しやすい状況となり、お金を集めやすくなるメリットもあります。

事業を長く継続できる環境になる

個人事業主は事業主が万が一の状態になった時には廃業となりますが、法人は社長が死亡したとしても事業の存続に影響が少なくなります。

法人化した方が事業を長く継続できる環境となり、これは取引先が個人事業主ではなく、法人を好む理由のひとつといえるでしょう。

長く事業を継続していくためには相続の問題がありますが、個人の相続よりも法人の株式相続の方が支配権の維持や遺産分割対策という面でメリットがあるでしょう。

法人化するデメリット

法人化デメリット

法人化はメリットだけでなく、以下のようなデメリットもあります。

デメリットをよく理解して、本当に法人化させるべきか慎重に検討しましょう。

  • 法人化の費用がかかる
  • 社会保険加入の費用がかかる
  • 事務作業が複雑になり増加する
  • 赤字でも税金を納めなくてはいけない

法人化の費用がかかる

法人化する際には、以下のような費用が必要となります。

  • 登録免許税が15万円
  • 定款認証手数料が3万円
  • 専門家依頼した場合の報酬5万円程度
  • 資本金

資本金は1円でも法人化できますが、取引先や金融機関からの印象を考えると好ましくありません。

資本金は事業を行うための元手になる資金なので、多いほど信用が高まるといっても過言ではありません。

資本金が安すぎると、詐欺やマネーロンダリングを疑われてしまう危険があります。

社会保険加入の費用がかかる

社会保険に加入するのはメリットではありますが、その分の費用が負担に感じられるかもしれません。

社長1人でも加入しなければいけませんし、従業員分は事業主と折半なので従業員数が多いほど社会保険料が高額になります。

ただし事業拡大や収入アップのタイミングをきちんと見計らって従業員を増やしていけば、メリットの方が大きいと感じられるでしょう。

事務作業が複雑になり増加する

法人化デメリット

個人事業主の主な税処理は確定申告で、1年に1回でした。

法人化すると法人税申告書や決算書など、複雑な事務作業が増加します。

税理士に依頼するのがおすすめですが、税理士費用がかかるので躊躇してしまう方もいるかもしれません。

しかし経営者がこれらの事務作業を行おうとすると、
本業に支障をきたしてしまうでしょう。

手間やコストを考慮し、税理士と相談しながら進めていくのが理想的です。

赤字でも税金を納めなくてはいけない

個人事業主は所得に応じて税金が決まりますので、赤字になれば所得税と住民税はかかりません。

しかし法人は法人住民税均等割という税金を納めなくてはならず、赤字でも支払い義務があります。

赤字で経営が苦しい状況で支払わなければいけない税金があるというのは、デメリットのひとつになるでしょう。

法人化のタイミングとは

法人化タイミング

法人化にはメリットもデメリットもありますので、
タイミングを見極める必要があるといえるでしょう。

法人化のタイミングとなる目安について、お伝えします。

  • 課税所得が900万円を超えたら
  • 売上高が1,000万円を超えたら
  • 事業を拡大したい時

課税所得が900万円を超えたら

節税を目的に法人化する場合、一般的に目安になるといわれるボーダーラインは課税所得700万円~900万円です。

個人事業主の所得税率は累進課税で、所得に応じて増加します。

法人税は固定税率で税率が一定なので、損益分岐点を考慮した際に課税所得700万円~900万円が法人化のタイミングとなります。

売上高が1,000万円を超えたら

個人事業主の売上高が1,000万円を超えたら2年後から消費税がかかりますが、法人化した最初の2年間は消費税の支払いが免除されます。

そのため売上高が1,000万円を超えた2年後というタイミングで法人化すると、消費税の支払いを最大4年遅らせられるようになります。

このような制度を利用し、最大限節税できるタイミングを見極めると損がありません。

事業を拡大したい時

法人化のメリットでお伝えした通り、法人化させた方が社会的信用度がアップするのでビジネスチャンスが広がります。

「融資を受けたい」「事業を拡大したい」「雇用人数を増やしたい」というタイミングが、法人化のひとつのタイミングであるといえます。

事業拡大には「人・モノ・金」が必要だといわれますが、これらを獲得しやすい環境を作るため法人化はひとつの選択肢となります。

法人化をして後悔するケース

一般的には所得が一定を超えると法人化を検討していきます。

しかし法人化をして後悔しているという人がいますので、後悔してしまうケースについてお伝えします。

  • 節税効果がなかった
  • 設立コストが高額だった
  • 稼いだお金を自由に使えないストレス
  • 経理や決算に手間がかかる
  • 精神的な負担が増加した

節税効果がなかった

法人化後悔

法人化の目的が節税という方は少なくありませんが、
いざ法人化してみたら意外と節税効果を感じなかったというケースがあります。

一般的には、課税所得900万円程度が法人化の目安となりますが、法人化してから売上が下がってしまうと逆に税金が高くなってしまいます。

また法人化のタイミングで税理士を依頼したら、会計管理の穴を指摘されるというケースもあり、せっかく法人化しても節税効果を感じられない場合があります。

設立コストが高額だった

法人化のコストは合計で23万円ほどとご紹介しましたが、設立コストは下げられる可能性があります。

例えば、「株式会社ではなく合同会社を検討する」
「助成金・補助金の対象になるか確認する」といった工夫で費用が変わってきます。

助成金や補助金は会社設立時にしか使えないものもありますので、タイミングを逃さないようにしなければいけません。

税理士に相談すると、これらの制度を熟知しているというメリットがあります。

稼いだお金を自由に使えないストレス

個人事業主であれば、稼いだお金は自由に使えます。

しかし法人化すると、会社の資産と個人の資産は明確に分離されたものとなりますので、社長であっても自由に使えません。

役員報酬は1度決めたら1年間は変更できませんので、
お金を自由に使えないストレスを感じてしまうかもしれません。

経理や決算に手間がかかる

法人化のデメリットでもお伝えしましたが、実際に法人化してみると手間の負担を感じる方が多いようです。

小さな会社であっても事務の手間がかかりますので、
税理士費用を最初から予算に入れて依頼しておくのがおすすめです。

経営者が事務に手間を割こうとすると本業が疎かになるだけでなく、処理方法を誤ると追加課税のリスクがあります。

プロが税務処理を行ない、経営者は事業に専念できる環境を整えておくのが得策であるといえるでしょう。

精神的な負担が増加した

個人事業主から法人化するタイミングではイキイキと事業に取り組めていたのに、法人化すると精神的な負担を感じるようになるという方がいます。

「税務調査に不安を感じる」「売上が下がったらどうしよう」というように、突然不安が増加します。

法人化して売上が右肩上がりという場合には不安を感じないかもしれませんが、業績が伸び悩むとストレスが増加します。

あえて法人化しないのもアリ?

あえて法人化しない

法人化にはデメリットがありますので、あえて法人化しないという人もいるのが事実です。

「節税のため」「事業拡大のため」には法人化がメリットとなりますが、あえて法人化しない人の狙いは、どのような点があるのでしょうか。

  • あえて法人化しない人の狙いとは
  • 法人化を急ぐ必要がない人

あえて法人化しない人の狙いとは

法人化のメリットよりもデメリットを大きく感じる人は、あえて法人化しないという選択をします。

例えば、「自由にお金を使いたい」「税務処理が複雑化する」「税務調査の確率が高くなる」などが理由です。

さらに法人化すると、「経営方針が自由に決められない」という点を理由に挙げる人もいます。

好きで始めた仕事で個人事業主をしている人は、個人事業主の身軽さに魅力を感じている人もいるからです。

法人化のタイミングについてお伝えしましたが、そのタイミングがきたからといって必ず法人化しなくてはいけないというわけではありません。

法人化を急ぐ必要がない人

事業拡大を考えていない人や、利益があまり伸びていない人は、法人化を急がなくてもいいかもしれません。

法人化のメリットが、本当に自分自身にメリットになるのか、という点を冷静に判断するべきであるといえるでしょう。

法人化すると、法人を解散する際にも費用がかかり、
手続きの手間が負担となります。

自分の将来の姿や希望を明確にし、法人化させるべきか考えていきましょう。

法人化はメリットだけじゃない

法人化はメリットが多数ありますが、デメリットもいくつかあります。

一般的にみればメリットが魅力的ですが、自身にとって本当にメリットなのかを考える必要があります。

あえて法人化しないという選択肢もありますので、
焦らずに考えていきましょう。

法人化のメリットが大きいかは個別の状況によりますので、判断に迷ったら税理士にご相談ください。

法人化のベストなタイミングや申請できる助成金など、節税に関するご相談にも対応していますので、早めに相談していただけると多くのサポートが可能です。


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