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決算賞与は税務調査で指摘されやすい?損金計上の要件とは

読了目安時間:約 6分
事業の成績がよかった場合など、決算賞与の支給を検討するケースもあるでしょう。決算賞与は通常の賞与とは異なる制度です。そのため、決算賞与を支給する場合、税務調査の際に指摘を受け、損金計上が認められないケースが少なくありません。
では、決算賞与を支給する際には、どのような注意が必要なのでしょうか。
今回は、税務調査時に指摘を受けやすい決算賞与について、支給時の税務処理のポイントなどについてご説明します。
決算賞与とは
決算賞与とは、会社の業績に応じて支給される賞与のことで、一般的にはよい業績を上げている企業が事業年度末に従業員に利益を還元するために支給するケースが多くなっています。夏季と冬季に分けて支給される賞与とは異なり、決算賞与は業績がよく、大きな利益が出た事業年度に支給される性質の賞与です。そのため、企業によっては特別賞与や臨時賞与、年度末賞与といった名称で支給するケースもあります。
決算賞与の特徴
決算賞与は業績によって変わるため、毎年、必ず支給される賞与ではありません。また、決算賞与の支給時期は、事業年度末の前後となります。なぜなら、事業年度の利益は決算の結果で確定するものであるためです。決算によってどの程度利益が出ているかを把握できなければ、決算賞与を支給すべきか、その額をどのくらいに決めればよいのか、適切な判断ができません。また、決算賞与を当期の損金として算入するためには、決算日から1ヶ月以内に支給しなければならないといったルールがあります。そのため、決算賞与は決算月または決算翌月に支給されるケースが多くなっています。
決算賞与の支給額はどう決める?
決算賞与の支給額は利益に応じて決定されるケースが一般的であり、どのような基準で支給額を決定しても問題はありません。
また、支給方法にも給与と連動する形で支給額を決定する方法や全従業員に一律で同じ金額を支給する方法などがあります。全従業員を対象に支給するのではなく、成績のよかった従業員や会社への貢献度合いの高い従業員のみに支給しても問題はありません。
決算賞与を支給するメリット
決算賞与を支給する場合、次のようなメリットが生じる可能性があります。
従業員のモチベーションを高められる
決算賞与は、業績がよかった場合のみに支給される臨時的な賞与です。企業を支えているのは従業員であり、従業員の頑張りがなければ業績が上がることはありません。決算賞与は従業員の頑張りを賞与という形で従業員に還元する仕組みであり、従業員にとっては頑張りが評価されたと目に見える形で示されたことになります。
会社に貢献できているという達成感は、モチベーションの向上にもつながるでしょう。また、業務に励めば業績が上がり、決算賞与などで還元される可能性があると捉えられれば、さらなるモチベーションアップにもつながる可能性があります。
従業員がモチベーション高く業務に取り組むようになれば、会社全体の生産性も高まり、業績がさらに向上する可能性もあるでしょう。
節税対策になる
決算賞与の支給は、従業員のモチベーションを高めるだけではありません。一定の要件を満たして決算給与を支給すれば、損金として算入することができます。法人税などの税額は、課税所得額に税率をかけて算出するものです。したがって、決算賞与を支給し、決算賞与の額を利益から損金として差し引くことができれば、課税所得額を圧縮できるため、納税額も抑えられます。そのため、事業年度の終わりに利益が多くなることが分かると、節税のために決算賞与を支給し、納税額を抑える事業主が多いのです。また、決算賞与の支給が節税につながることが、税務調査の際に決算賞与についての指摘が増える理由の1つでもあります。
決算賞与を当期の損金として算入するための要件
決算賞与を当期の損金として算入するためには、次の要件を満たす必要があります。万が一、要件を満たしていないにもかかわらず損金として算入していると、税務調査時に指摘を受けるでしょう。損金が否定されれば、申告した課税所得額が少なかったということになるため、過少申告加算税などの納税が求められる恐れがあります。
では、どのような要件を満たせば決算賞与を当期の損金として算入することができるのでしょうか。
事業年度の終了日までに、決算賞与を支給する全員に支給額を通知している
まず、決算賞与を損金として算入するためには、事業年度が終了する日までに、決算賞与の支給を行う従業員全員に支給額を通知しておかなければなりません。通知方法には規定があるわけではありませんが、税務調査の際に指摘を受けることがないよう、口頭ではなく、通知を行ったことを証明できるように書面で通知をした方がよいでしょう。また、確実に従業員が通知を確認していることを証明するために、書面で通知を行った際には、従業員から通知を確認したことに対するサインや印鑑などを回収し、控えを保管しておくと安心です。
事業年度終了日の翌日から1ヶ月以内に全員に通知した金額を支給している
決算賞与は、事業年度の終了日の翌日から1ヶ月以内に支給していなければ、当期の損金として扱うことができません。また、支給時には事前に従業員に通知した金額と同じ額を支給しなければならない点にも注意が必要です。
万が一、決算賞与の支給日が遅れ、事業年度終了日の翌日から1ヶ月以上経過したタイミングで決算賞与を支給した場合、その支給額は当期ではなく、翌期に損金として算入することになります。
決算賞与は、当期の業績がよい場合に利益を従業員に還元する目的で支給をする賞与です。しかし、当期の損金として算入できなければ、課税所得額を圧縮することはできないため、節税対策とはなりません。
また、決算賞与を事業年度終了日の翌日から1ヶ月以内に支給したことが記録として残っていなければ、税務調査時に指摘を受ける可能性が高くなります。決算賞与を支給する際には、記録が残りやすいように銀行振込を行い、支給額や支給日が明確に示せるようにしておきましょう。
支給額の損金算入は通知日の属する事業年度に行っている
決算賞与として支給した額は、通知をした日が属する事業年度に損金算入をし、経理処理を行っていなければ当期の損金としては認められません。つまり、決算賞与についての通知を事業年度内に行い、事業年度終了日の翌日から1ヶ月以内に通知した金額を支給していれば、事業年度内に支給が終わっていなくても、未払い賞与として計上することができるのです。
税務調査で決算賞与の損金算入を否認されないためのポイント
決算賞与を当期の損金として算入するためのルールを守っていなければ、税務調査の際に損金算入を否認される恐れがあります。
税務調査で決算賞与がチェックされる理由とは
税務調査では、帳簿などの関連書類を細かくチェックし、正しく納税が行われているかどうかの調査がなされます。納税額について正しく算出されているのかを確認するためには、税額の算出のもととなる所得額が正しく申告されているかをチェックする必要があります。所得額は、会社の収入から必要経費を差し引くことで算出する金額です。所得額を圧縮すれば、納税額を低く抑えることができるため、不正を行い、税金逃れをする企業の多くは収入である売上を正しく計上せずに低く装うか、経費の水増しを行います。決算賞与も経費として計上できる費用であり、当期の損金として算入する要件を満たしていないにもかかわらず、経費計上がなされていれば、不正に課税所得額を圧縮していると捉えられるのです。
そのため、税務調査では決算賞与が損金として算入されている場合、当期の損金として扱うためのルールに則ったものであるかどうかを細かくチェックするケースが多くなっています。
当期の損金として扱うルールを厳守する
決算賞与を当期の損金として扱う場合には、次の3つのルールを守らなければなりません。
・従業員各人に、決算日までに支給額を書面などで通知する
・決算賞与は、事業年度終了日の翌日から1ヶ月以内に支給する
・通知をした事業年度において損金算入の処理をしている
税務調査時に指摘を受けることがないよう、確実に上記の3つの要件を満たすようにしましょう。
支給日在籍要件を規定しているケースは注意が必要
事業年度内に決算賞与についての通知を行っており、事業年度終了日の翌日から1ヶ月以内に決算賞与を支給する場合は、通知日が属する事業年度に未払い賞与としての計上することが認められています。しかし、就業規則や労働協約などで、賞与の支給は支給日に在籍している従業員に限定する旨を定めている場合は注意が必要です。
未払いの決算賞与を計上するためには、決算日までに債務が確定している必要があります。そのため、「支給日在籍要件」と呼ばれるこの要件を規定している場合、支給日までに退職した従業員がいない場合であっても、決算賞与の未払い計上は認められません。これは、賞与支給日に会社に在籍していることが、賞与の支給要件となっているため、決算日までに債務が確定していないとみなされるからです。したがって、このような規則がある場合に、事業年度内ではなく、事業年度終了日の翌日から1ヶ月以内に決算賞与として支給する金額は全額、損金として認められません。
万が一、就業規則などにおいて、賞与支給日には会社に在籍していることを規定しているにもかかわらず、未払い賞与として決算賞与を損金算入している場合は、税務調査で指摘を受けます。決算賞与を支給する際には、賞与についてどのような規定がなされているか、事前に確認しておくことが大切です。
通知内容と支給額が異なる場合は損金算入が認められない
決算賞与は、従業員に通知した支給額の通りに支給を行わなければなりません。万が一、通知した支給額と実際に支給した決算賞与の額が異なることが税務調査で発覚した場合、支給額が異なっていた従業員の分だけでなく、決算賞与として支給した金額のすべてが否認されます。決算賞与を支給する際には、通知した支給額と同じ額であるかを確認し、間違いがないように支給するようにしましょう。
税務調査で指摘される役員の決算賞与
まず、役員の場合、決算賞与を支給しても支給した額を損金として算入することができません。役員報酬のうち、損金算入が認められているのは毎月同額が支給される「定期同額給与」、事前に税務署に届け出をした支給日に届け出た金額を支払う「事前確定届出給与」、会社の利益に応じて支払われる「業績連動給与」の3種類だけです。
業績連動給与は、税務署に事前に届け出をする必要はなく、予め支給額を決めておく必要もありません。しかし、業績連動給与を損金として計上するためには、同族会社以外の会社であり、報酬の算出方法が算定指標に基づく客観的なものであり、他の算定方法と同様でなければならないといったルールがあります。また、有価証券報告書などに算定方法が開示されていなければならないといった規定もあるため、非上場企業の場合は業績連動給与を支給しても、損金算入は認められません。要件を満たしていないにもかかわらず、役員に対しても決算賞与を支給し、損金として計上している場合には税務調査で指摘を受けることになるため、注意が必要です。
社会保険料の損金算入のタイミングにも注意が必要
決算賞与にも、通常の給与や賞与と同様に社会保険料がかかります。社会保険料は、事業者と従業員のそれぞれが折半をして負担をしますが、事業者負担分の社会保険料については、保険料の計算の対象となった月の末日が属する事業年度に損金として算入ができるというルールです。
まとめ
決算賞与とは、業績に応じて事業年度末に支給を決定する臨時的な賞与のことです。決算賞与を支給し、従業員に利益を還元すれば、従業員のモチベーションを高められるだけでなく、損金計上によって利益の圧縮を叶えられるため、節税対策にもなります。
しかしながら、決算賞与を当期に損金算入するためには満たさなければならない要件がある点に注意しなければなりません。税務調査時に決算賞与の計上について指摘を受けた場合、過少申告加算税などの追徴課税がなされる恐れもあります。就業規則なども確認したうえで、ルールに則り、正しく経理処理を行うようにしましょう。
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この記事の監修者

税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。
税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。
全国からの税務調査相談実績 年間1,000件以上
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